研究概要 |
平成20年度では、エリザベス朝における宗教・政治関係の研究書、及びアングリカン・チャーチ体制と演劇文化に関する文献・資料を収集し、あわせて、(1)Anthony Mundayに関する最新の研究書2冊の書評を行い、また(2)George Peeleとプロテスタント的反演劇主義との関係の検証を行い、学会発表と論文執筆を行った (1)においては、Tracey Hill,Anthony Munday and Culture: Theatre, History and Power in EarlyModern London 1580-1633 (2004)を、donna B. Hamilton, Anthony Munday and the Catholics,1560-1633(2005)と比較させながら書評し、Shakespeare News,Vol.48No.1(日本シェイクスピア協会、2008年9月),pp.49-52に発表した。その中で、Mundayの活動空間と劇場並びにシティが密接な関連にあり、Mundayがこの3者の重要な結節点となっていること、さらにMundayのこのような位置が彼のプロテスタント的傾斜と緊密な繋がりを有する点を強調した。 (2)においては、George Peeleの.David and Bethsabe(1592-94)を取り上げ、論じた。アングリカン・チャーチ体制強化の流れの中で、カトリック的偶像崇拝の意味を負わされた聖史劇の抑圧が進行し、聖書に取材した戯曲の創作が極めて困難になっていたにもかかわらず、旧約聖書に基づく本劇が執筆上演された。それは何故可能となったのか、またこの出来事の演劇史的意義はどこに存在するのかという問題を、同時代に創作された類似の戯曲等を手掛かりに検証し、聖史劇の抑圧と、14世紀後半以来200年にわたって存続してきた聖史劇にまつわる記憶とのせめぎ合いの中で、職業劇作家としてPeeleは、聖史劇に対する民衆の根強い指向へ配慮すると同時に、大学才人としての古典的素養に裏打ちされた材源の人間化を行うことで、おそらく本劇を誕生させた、との結論を得た。
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