研究概要 |
平成21年度では、エリザベス朝における宗教・政治関係の研究書、及びアングリカン・チャーチ体制と演劇文化に関する文献・資料を収集し、あわせて、(1)Anthony Mundayにおける反カトリック表象の分析を行い、学会発表と論文執筆を行うと共に、(2)George Peeleとプロテスタント的反演劇主義との関係の検証を行い、学術論文を刊行した。 (1)においては、「Anthony Munday, The Downfall of Robert, Earl of Huntingdonにおける政治的言説」を、『筑波イギリス文学』第12号(2010)に発表した。その論で、Mundayが、The Downfall of Robert, Earl of Huntingdon (1598)の中で、John Skeltonの活用、パストラルの領有、Prince Johnの表象という3つの相において、反カトリックのヴェクトルを提示していることを解明した。 (2)においては、George PeeleのDavid and Bethsabe (1592-94)を取り上げ、「『ダビデとバト・シェバ』-1590年代の聖書劇をめぐって-」を、『英米文学の可能性』(英宝社、2010)に発表した。アングリカン・チャーチ体制強化の流れの中で、カトリック的偶像崇拝の意味を負わされた聖史劇の抑圧が進行し、聖書に取材した戯曲の創作が極めて困難になっていたにもかかわらず、旧約聖書に基づく本劇が執筆上演された。それは何故可能となったのか、またこの出来事の演劇史的意義はどこに存在するのかという問題を、同時代に創作された類似の戯曲等を手掛かりに検証、し、聖史劇の抑圧と、14世紀後半以来200年にわたって存続してきた聖史劇にまつわる記憶とのせめぎ合いの中で、職業劇作家としてPeeleは、聖史劇に対する民衆の根強い指向へ配慮すると同時に、大学才人としての古典的素養に裏打ちされた材源の人間化を行うことで、おそらく本劇を誕生させた、との結論を提示した。
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