本研究はT.S.エリオットの詩劇を再読・再評価することを主目的としている。すでに3分の2以上の内容を公表しており、本年度は、第5の詩劇The Confidential Clerkを公表する予定であったが、研究が予想外に早く進み、この詩劇に関する論文は昨年度にすでに公表済みである。従って、今年度は来年度の計画分に着手し、第6(最後)の詩劇The Elder Statesmanについての研究を公表した。 本詩劇には、エリオットが後期の社会・文化論の中で書いた「故人に対する敬慕」と「まだ生まれない者への配慮」によって結ばれた「遙かに長い期間を抱擁するひとつのつながり」としての家族像の理想型が見られる。これが、詩劇を通してエリオットが一般社会に示そうとしたものの終着点である。詩から詩劇へと受け継がれていった宗教的世界と世俗的日常世界との断絶から和解、調和を経て、日常世界における愛に支えられた家族関係を描ききったエリオットの最後のテーマの意義を明らかにすることができたと考えている。 また、一般社会と正面から向き合ったエリオットの本質を見極める際に、本科研費で購入したThe Criterion全集は大変重要な文献であった。これらを基にして、共同体と家族の再生を目ざしてより多くの人々に直接働きかける手段としてエリオットが選択した劇場の意義を考察することができた。 エリオットの最後の詩劇について分析・考察できたことで、今後は本研究を総括し、エリオットの詩劇と詩・評論を有機的に関連づけながら、最終的に彼の作品量界の全体像を明らかにしてゆく作業に入りたい。
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