本年度は、消滅時効の比較法研究を中心におこなった。具体的には、国際連合国際取引法委員会起草の国際的動産売買における時効に関する条約、イギリスの消滅時効、オランダ新民法、ケベック新民法、ヨーロッパ契約法原則、ドイツ改正民法、パヴィアヨーロッパ契約法典草案、ユニドロワ国際商事契約原則、共通参照枠草案、フランス改正民法の時効法をとりあげ、これらの時効法を要件と効果を中心に比較し、各時効法の共通性と独自性、およびドイツ・フランスについては旧法との主要な違いを見る作業をおこなった。対象は広く、まだ研究途中ではあるが、これらの近時の時効法をみると、ヨーロッパ契約法原共通参照枠草案に大きな影響を与えていることがうかがわれる。全体として、消滅時効法は、主観的起算点による期間の短期化・統一化と執行以外の権利行使型中断事由の停止事由への移行に向かっているが、主観的起算点の短期は客観的起算点による長期との二重期間構成につながり、その内容は多彩である。期間の短期化は、他方で、起算点や、合意による時効規定の排除などにより、債権者保護とのバランスをはかろうとしているが、ここでも、その具体的な内容や法的構成は一様ではない。近時の時効法の大きな動向とともに、権利者保護と義務者保護のバランスの多様さが浮き彫りになったといえよう。このことは、あるべき時効制度を探るうえでの大きなヒントとともに制度設計の多様さと困難さを示しており、引き続き、より綿密な検討が必要である。
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