研究概要 |
本研究は,社会的養護体系の児童福祉施設利用に至った家族を種別横断的に把握し,子どもの貧困の現代的態様とその生成過程を検討し,貧困の世代的再生産の防止の観点から家族支援策の開発に寄与することを目的とする。 2008年度は,まず,諸外国における子どもの貧困研究のレビューを実施し,論点の整理を行った。実態把握の研究方法論,貧困の態様と子どもへの影響,支援施策の実際と効果, NPO活動等の市民レベルのアプローチ,といった諸側面から課題を析出した。 第2に,保育関係者,学校関係者(教員・養護教諭・学校事務職員),児童福祉施設職員,児童相談所職員,子ども医療機関職員などに,各現場における子どもの貧困の態様と支援の課題についてヒアリングを実施した。領域横断的に現状を捉えていく必要とともに,子どもにとってのセーフティネットとは何かを検証する必要が確認された。子どものライフステージをまたぐセーフティネットの劣化が把握される。 第3に,当事者が子ども期の貧困をどのように感じ受け止めてきたのか,成人期にある当事者のインタビュー調査を実施した。子ども期に「子どもとしての福祉が阻害されてきた体験」を抱える当時者が,成人後も社会的支援を要する現実のなかに社会的不利の連鎖と複合がどのように表れているのか,を焦点とした。家族形態の流動化を伴いながら,成人期以降の社会的不利が現象化している実態が把握される一方,新たな社会福祉実践の萌芽が当事者のエンパワーメントとして有効に機能している実態が確認された。例えば,親となった当事者の高校進学,高校卒業資格取得を支援するような実践である。あるいは,移行期にある若者世代への自助グループ的な「場」作りのなかで,社会的つながりを再構築する実践もみられた。更に,子ども期の貧困の影響は,30代・40代以降の長期的スパンをもって把握する必要があることも確認された。
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