平成21年度の主な研究目標は、稼働年齢層の貧困者に対する自立支援策の現状と課題を明らかにするための研究に取り組むことであった。そのため21年度前半(4~8月)は、戦後から近年に至る住所不定者及び日雇労働者への貧困対策と政策的特質に関する先行研究と第一次資料の収集・検討を行った。21年度後半(9~3月)は、労働市場への参入が困難な貧困層を対象とした調査に取り組んだ。 特に今年度は地元自治体との共同作業により、A生活保護施設(更生施設)入所経験者83名を対象に聞き取り調査を行った(22年2~3月)。この調査の目的は、A施設入所経験者の利用状況、健康状態、要望などを明らかにし、今後、どのような就労・生活支援が必要なのか考察することである。調査結果からは、(1)A施設の入所回数が2回以上の入所者が半数を超え、そのうち10回以上の入所者が全体の2割超えていた。同施設の入所が必ずしもホームレス生活の脱却に結びついていない現状にあること、(2)職員とあまり会話や相談をしていない入所者が7割を超えており、職員との関係性については希薄な状況にある。一方で相談相手がいない者が7割近くを占めていた、(3)「望んでいる支援」については、「就職・仕事探し」の支援を望む者は比較的50歳代に多く、「住宅確保」や「健康面の相談」を望む者は比較的60歳代に多いという傾向にあった、(5)希望する就労支援としては、「資格や技術取得の支援」を望む者は49歳以下に多く、「身体ならしのための軽作業」を望む者は60歳以上に多い、などの傾向が明らかになった。これらの調査結果をもとに、22年度は稼働年齢層の貧困者に対する支援のあり方について検討を行い、論文、学会等で発表を行っていく計画である。また21年度は、22年度に実施を計画している質的調査に関する先行研究の検討を行い、質的調査の具体化のための研究にも取り組んだ。
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