研究概要 |
本研究の目的は,道徳的判断を適切に下すうえで不可欠である非単調的な推論の能力を高めるようなプログラムを構想することにある。そして,世の中には多様なものの見方や価値観があってよいということが,どのような価値観をもってもよいということを意味するわけではなく,いったん特定の前提を採用したときに許容されるものの見方や価値観は限られてくるということの十分な理解を通じて,責任感のある人材を育成しようとするものである。 そうした目的のために,平成22年度は,主として次のような取り組みに従事した。 1.前年度までの調査や研究の成果に基づいて,研究分担者である新茂之氏とのあいだで,学習者に非単調的な推論を促していくような,具体的な道徳教材例を具体化していくための検討会を数回行った。 2.非単調的推論の産物としての道徳的判断の本質的特徴を考察していくための文献や,道徳的判断力を養うための教育的かかわりに関係すると思われる文献や,学習者が抽象的な事柄を具体的な日常の事柄と関係づけてイメージできるような方策を提供してくれると思われる教育関係の文献に関して,その記述内容を整理した。そして,そうした整理によって得られたヴィジョンを,学会での発表内容に反映させた。 3.これまでの研究成果に関して,2010年11月14日に同志社大学で開催された日本道徳性発達実践学会第10回同志社大会(第27回道徳性発達研究会)において「価値観の相対化に関する一考察」という題目で発表を行った。 4.上述の学会発表の結果,非単調的推論能力の向上の問題が,依然として,学習者が状況を捉える際のスキルの問題としてみられがちであることがフロアの反応から確認された。非単調的推論能力は,単に状況把握のスキルの問題ではなく,思考力にかかわる問題であることをも広く訴えていく必要性が明確になった。
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