21年度はLooiengaによる写像類群の表現の自然な一般化ρについて、その像の大きさを評価する事に専念した: 閉曲面Σgのガロワ被覆Gを決めるごとに、写像類群Mgからある適当な実代数群の格子Γへの表現ρが定まる。この表現の像の決定はそれほど自明な問題ではない。Gがアーベル被覆の場合は、既に[Γ:Im(ρ)]<∞であると知られている。今やりたいのは被覆Gをうまく選んで、[Γ:Im(ρ)]=∞となる表現の存在を示す事である。もしこのような表現があれば、Γの特性類Φのグロモフ・セミノルムより、包含写像τ:Im(ρ)→Γによる引き戻しτ*(Φ)のグロモフ・セミノルムの方が真に小さくなると期待され、写像類群の有界コホモロジーについて非自明な結論が導かれる。 これまでの研究で、Γからある無限位数アーベル群Aへの捩じれ準同型Λが存在し、Im(ρ)がKer(Λ)に含まれる事が判った。もしΛの像が十分大きければ、[Γ:Im(ρ)]=∞が従うので、Γの各生成元xにたいして、Λ(x)を具体的に計算したい。計算の手順としては、各生成元xにたいして、ある幾何学的図式を書き下し、そこから曲面群の適当な商群に関する群環の元を取り出し、代数的な計算に持ち込む。代数的な部分は一般論があるが、計算に使う幾何学的図式を効率よく書き下す方法が不十分なので、まだ非自明な結果は出せていない。いずれにせよ計算機に頼らすに手計算でできる範囲だと思う。
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