種数gが2以上の閉曲面の写像類群、微分同相群、保面積微分同相群の有界コホモロジーをあつかい、以下のような予想・問題にアプローチする: (1)写像類群の特性類(つまり森田・マンフォード類)は全て有界であると予想し、そのグロモフ・セミノルムをなるべく精密に評価せよ。 (2)曲面の微分同相群(或は保面積微分同相群)から写像類群への自然な全射Jが有界コホモロジーに導く準同型J^*の作用素ノルムは1より真に小さいであろうという予想を証明する事。 (3)写像類群の2次有界コホモロジー群から(普通の)2次コホモロジー群への自然な準同型の核(これは写像類群から実数への正規化された擬準同型全体と等しい)の元の新しい構成法を与えよ。 (4)エルミート型対称空間のカノニカルなケーラー類ωが有界であることは例えば対称空間の幾何を使って示すことができ、ωのグルモフ・セミノルムの具体的値まで知られている。これを一般の有界領域に拡張することで写像類群の(種数に比べて次数が小さい)コホモロジー類の有界性を示すアプローチについて検討した。その結果、第1番目の森田・マンフォード類を表すコサイクルを一つ得た。これはタイヒミューラー空間の3点を変数とする関数の形で表される。この「関数」がウェル・ディファインドであることは全く自明ではなく、それを示すためにはリーマン面のモデュライ空間(のコンパクト化)に関する深い結果を援用する必要がある。またこのコサイクルが有界であるかどうかが非常に興味深いのだが、残念ながら全くわからない。先に述べたウェル・ディファインド性の証明を、有界領域の(タイヒミューラー空間を含む)より広いクラスに適用できるような証明に置き換えられれば、一般論を適用する形で今回得られたコサイクルの有界性を示せる望みがあると思う。またこの問題に関連するが、Σのタイヒミューラー空間の境界上での振る舞いと、Σ の大域的振る舞いをうまく関連づけるような考察や結果が得られれば非常に面白いと思う。
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