本研究では、無欠陥単結晶シリコンを対象として (i)破壊に先立つ材料内でのミクロ欠陥生成機構の解明と、 (ii)き裂先端場での動的なミクロ力学現象の解明 を目指した。研究手段としては、解析解で分子動力学(MD)を大域的に制御するという、解析解とMDの長所を融合した「解析解制御MD」を開発し、これを用いた。MDの制御に使う解析解としては (i)については「ヘルツ接触理論解」を (ii)については「モードI型き裂先端変位場」を用いた。 上記(i)については昨年度すでに報告しているので、ここでは(ii)について述べる。シリコンなどの脆性材料のクラック先端では、ミクロの動的現象が強く関与すると考えられる。しかしモードIの解析解変位場は動的効果を含まないため、解析解による制御を常時行うとこの動的効果を抑制する危険がある。そこで本研究では時間方向に連続的に解析解で制御するのではなく、所定の時間間隔ごとに時間平均として解析解に従うよう制御する新しい方法を開発した。次にこれを用いてシミュレーションを実行した結果、時間平均の長短すなわち採り入れる動的効果の大小によって、従来実験的に報告されていた破面の3形態すなわちミラー、ミスト、ハックルが再現されることが分かった。
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