本年度は以下の2項目について実施した。 (1)従来の解析解(数値解でも良い)制御MDでは、原子集団を直接解析解で制御していたが、今年度は任意サイズの原子クラスター集団に対して解析解制御が行えるよう拡張した。これによって解析解から出発して順次、粗視化のレベルを下げていく(解像度を上げてズーミングしていく)ことが可能になった。この手法は統計学の標本定理(物理学の局所熱平衡概念と等価)を基に開発したもので、近似的な手法ではあるが、従来の手法と同程度の計算負荷でズーミングシミュレーションが行える。単結晶銅のモードI型き裂先端場に本手法を適用した結果、粗視化度を順次下げることによって、き裂開口部でのボイド生成とディンプル形成が出現してくることが判明した。 (2)上記(1)とは逆の手法、すなわち原子から出発し、次に原子の集団である原子クラスターを粒子として順次繰り込み、粗視化度を上げながらMDを実行していく繰り込み群MDを完成させた。この手法では、繰り込んだ粒子間の相互作用の導出と、粒子の運動記述法の開発が鍵となる。本研究では、時々刻々変化する相互作用の高精度表現をまず導出し、さらにその近似表現としての原子間相互作用の修正形を導出した。一方、粒子の運動記述に関しては、粒子サイズが大きくなるに従い、静的な力の釣り合いを記述する連続体力学の変位場に近ずく事から、通常のMDに用いる蛙跳び法のアルゴリズムにおいて、慣性力から得られる速度と静力学から得られる速度とを、局所熱平衡の概念にもとずいてブレンドする手法を開発した。銅の引張りで、本手法の有効性が確認された。
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