近年、日本では、高級魚として知られるトラフグTakifugu rubripesの養殖が九州地方を中心に盛んに行われているが、一方で、魚体に寄生虫が付着しやすいため、その対策が養殖業者にとって大きな課題となっている。このうち、寄生性カイアシ類Caligidae(カリグス科)とその近縁のカイアシ類は魚体表面やエラに付着し、組織、血液などを栄養源とするため消費者からの苦情の原因となったり、吸血部位から細菌感染をおこし組織が破壊され商品価値を落としたりする。現在、寄生性カイアシ類は、フグ以外にも世界の水産業に年間数億ドルの損害を与えているが、これまでのところ効果的な駆虫法がなく、安全な駆虫剤の開発が急務とされている。このような観点から寄生性カイアシ類に対する駆虫活性成分のスクリーニングを目的として、海藻の粗抽出液を添加した海水中で数種カイアシ類の寄生したクサフグを飼育したところ、紅藻類の一部にPseudocaligus fuguなどに代表されるフグ寄生性カイアシ類に対して、高い駆虫効果が認められた。これらの成分は、新たなフグ類をはじめとする魚類寄生虫駆虫剤を開発する上でのリーディングコンパウンドになる可能性があることから、本研究ではその基礎データを入手することを目的としている。そこで本年度は、まず、本研究を円滑に遂行する上で、必要となる駆虫活性スクリーニングの対象となる数種の紅藻類の採集と活性のスクリーニングを中心に行った。すなわち、平成20年6月18目、沖縄県石垣市川平湾沖のリーフの複数の地点において、カイニン酸を多量に含有するカイニンソウ(マクリDigenea simplex)を採取するとともに、未同定の海藻5種を採取し、粗抽出液を用いた駆虫活性のスクリーニングを行ったところ、主にカイニンソウに効果の期待できる駆虫活性が確認された。含まれる駆虫成分の特定やその含有量などについて引き続き研究を進めている。また、平成20年9月8日フィリピンセブ島の北部海域においても紅藻類を含む数種の海藻を採取し、同様に魚類寄生虫に対する駆虫活性のスクリーニングを行った。
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