細胞癌化の特徴として、(1)生理的な制御機構が破綻し、異常に増殖能が亢進していること、(2)細胞分化が停止し、生理的な機能を喪失すること、が知られている。このような特徴を生み出す分子機構に関しては、細胞増殖の亢進につながる遺伝子の変異と細胞分化を抑制する遺伝子の変異が独立して蓄積することが定説とされてきた。我々はこの点に関して、癌化した細胞において発現レベルや活性が亢進している細胞周期制御分子が、蛋白質・蛋白質相互作用を介して細胞分化や分化に伴った増殖停止に関わる分子の転写制御を破綻させ、細胞癌化に寄与しているという仮説を立て、その検証を行ってきた。その結果、肺腺癌細胞においてcyclin D1が腫瘍抑制遺伝子であるRUNX3と複合体を形成し、RUNX3によるcyclin-dependent kinase(cdk)阻害分子p21の転写を抑制することにより癌細胞の増殖を亢進させていることを明らかにしえた。
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