本邦における脳死の判定は昭和60年に作成された、いわゆる竹内基準が広く知られており、平成9年10月に施行された「臓器の移植に関する法律」においても同基準で脳死を判定することになっている。しかしながら、重症頭部外傷で鼓膜損傷を有する症例や頸椎・頚髄損傷例、あるいは視覚障害患者では脳死判定の必須項目である脳幹反射を施行すること自体が困難で、脳死判定が出来ないのが現状である。したがって、このような症例が脳死状態に至った際には生前意思があり、あるいは家族が脳死下での臓器提供を承諾している場合でも上記の理由で法的脳死判定が出来ず、善意の意思が無駄になってしまうのが現状である。臓器提供者が未だ少ない中で、これらの患者の生前意思を無にすることは「臓器の移植にかかわる法律」第二条にも反することである。したがって、現在の脳死判定基準では判定できないような症例に対しても、電気生理学的な手法で脳死判定が可能かを検討する本研究は極めて重要と考えられる。ちなみに、平成11年厚生省厚生科学研究特別事業「脳死判定上の疑義解釈に関する研究」(竹内一夫班長)では、脳死判定における電気生理学的補助検査に関して高い評価をしている。 現在の脳死判定基準で脳死判定ができないこのような症例においても脳死判定が可能となれば、さらに3割程度の脳死下臓器提供数増加が見込める。我々が行った先行研究より、脳死判定における電気生理学的な手法の有用性を症例の蓄積と過去の文献によるevidenceに基づいて明らかにした。Potential donorの意思を最大限反映させ、本邦における脳死下臓器移植の推進に資することを目的とする。
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