研究概要 |
頭頸部癌の治療成績は未だ十分ではなく有効な治療法の開発が必要である.本研究は,頭頸部癌に対する頭頸部癌の発癌に重要な遺伝子を同定し,この機能および情報伝達過程を解明することにより,新たな分子標的治療の開発に役立てようとすることが目的である.これまでの研究でGalaninの受容体の3つの受容体(GALR1-3)のうちGALR1は細胞周期を停止して細胞増殖を抑制することを見出したがアポトーシスの誘導は認められなかった.しかしながら中枢神経系では外傷後にGalaninの発現が急速に高まり,その後アポトーシスが誘導されることが知られている.このためGalaninのアポトーシスの誘導はGALR2またはGALR3を介していると思われる,今回,GALR2を頭頸部癌細胞に遺伝子導入し,GALR2単独の機能および情報伝達経路を観察し,治療遺伝子としての可能性を検討した.昨年度まで研究代表者らは,当初の計画に従いGALR2発現プラスミドを作成し,これを頭頸部癌に遺伝子導入しGALR2発現細胞株を樹立した.これらをGalaninで刺激したところGALR2発現細胞株では著明な細胞死が認められ,予測の通り,GALR2は頭頸部癌においてアポトーシスを誘導する可能性が示唆された. 更に,GALR2の情報伝達経路を確認したところカスパーゼの阻害剤(DEVD)を前処置することによりGALR2による細胞死は一部抑制することができた.また,GALR2発現細胞株をGalanin刺激するとMAPKの活性化が認められた.更に,GALR2はcyclin D1の発現を抑制するが,この抑制反応はMAPKの特異的阻害剤(UO126)を前処置することにより解除された.しかしながら,UO126によるGALR2依存性細胞死の抑制は一部にとどまった.以上の結果より,GALR2は細胞周期停止およびアポトーシス誘導の二つの作用を持つが,これらはそれぞれ異なる情報伝達系を持つことが示唆された.
|