本研究の目的は、トライアスロン国内一流競技者の走動作の特徴を、形態および体力的特徴との関係に着目しながら明らかにすることである。本年度は課題1として、トライアスロン国内一流選手の実験走を三次元的に撮影し、同時に地面反力を計測した。そしてキネマティクス、キネティクス(関節トルク、関節スティッフネスなど)、下肢筋群の張力、収縮速度などを算出し、トライアスロン選手におけるこれらのバイオメカニクス変量を長距離選手と比較した。また、三次元人体形状および大腿・腹部の断面画像を計測し、身体部分慣性係数(以下、BSP)、筋断面積などの形態データを得た。筋張力推定については、身体の三次元座標および関節トルクデータを筋骨格モデルに取り込み、さらに最適化手法によって関節トルクを個々の筋に分配し、筋張力、活性度、収縮速度などを算出する。筋骨格モデルは、筋骨格モデリングソフトウェアSIMMにより構築した。 競技水準が高く、ランの記録が良い選手では、接地前に股関節伸展筋群と膝関節屈曲筋群の活動を強調して下腿の振り出しを抑制して接地し、支持期において素早い大腿のスウィングにより身体重心の下降を抑えながら、短時間で勢いよく離地して大きな非支持期距離を得ていたことが明らかになった。このような上位選手の走動作は陸上競技の長距離走において重要視されている技術と類似しており、形態、体力が長距離走選手と異なるトライアスロン選手においても、高い走速度を得るための技術には共通点が多いことが示唆された。次年度は、陸上競技長距離選手についても同様の測定を行い、形態、体力のデータと関連づけながらトライアスロン選手と比較すること、国際トライアスロン競技会において世界一流選手の走技術を分析することが課題である。
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