研究概要 |
本研究は,福山市鞆町(=鞆の浦)における港湾架橋問題を対象とする。これまで代表者らは,各種資料の分析および聞き取り調査をもとに,1. リーダーの交代によって架橋反対運動の戦略が劇的に変わった,つまり外部有識者や学識経験者,全国レベルの募金や署名活動などを有効に活用し,いわば「外からの声」で事業の白紙撤回をめざす方法になってきたこと,2. このとき全国から反対の声を挙げたのは,歴史的建築や土木遺構などハード面の景観を専門とする有識者や文化人が多く,鞆の価値が特定の側面からのみ測定される契機となったこと,などを明らかにした。一方,多数派であるらしい推進派の声は全く外には届かず,その理由は3. 鞆の社会風土が持つ年功序列・家父長制的な性格と,強固なウチ/ソト意識により,そもそも鞆町内の問題で外部の者に同意を求めるという意識が働かなかったためらしいことも分かった。 そこで代表者らは,問題の当事者である地域住民がこの事業に対しいかなる感情を抱いているのかを,科学的な手続きに則って明らかにすることが必要であると考えた。2年目にあたる本年度は,その調査結果を学会等で公表し,住民間の合意形成に向けた土壌づくりを中心に行った。
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