本研究は、構文(Construction)を文法の基本的単位とみなす構文理論の考え方に従い、主に二重目的語構文と授与使役構文(動詞連続構文の一種)について、これらの構文が拡張していく現象(構文拡張)を考察する。特に、拡張をもたらす動機、及び拡張に伴ってうまれる制約(人称代名詞の非指示化、非現実ムードの叙述のみに生起)の要因を解明することを目的とする。 H20年度は、中国語(共通語、諸方言を含む)の二重目的語構文と授与使役構文について、これらの構文がスキーマ的意味に含む授与に着目し、授与が表す強い意志性及び行為実現に対する高いコントロールが、これ照の拡張構文が非現実の文脈、特に話者の強い意志を表すことに用い照れる動機になっていることを主張した。しかし、授与を表す文が全て非現実ムードの制約を持つわけではないことから、授与がムード制約を生む唯一の条件ではない。もう一つの重要な条件は、授与行為の受け手(着点・終結点)である三人称代名詞の非指示化であり、これは共起する動詞の意味タイプや第2目的語(直接目的語)との相互作用によってもたらされるのである。このように授与を表す構文の拡張現象は、他言語(英語、日本語、タイ語)においても見られており、本研究者は、これらの言語についても調査し、上述の中国語に関する考察結果の妥当性を確認した。 本研究の研究成果は、従来の研究では見過ごされてきた拡張構文が非現実性を帯びる要因を、授与意を含むスキーマ的意味、及び受け手の人称代名詞の非指示化との関連で分析した点で評価される。
|