本年度は昨年度作成した中世・近世のコーパスの改良を行った。国文学資料館の「日本古典文学本文データベース」の中世・近世の全数について、テキスト修正や書誌情報を同時に得られるように加工した。また、国立国語研究所開発の全文検索システム「ひまわり」で扱えるようにした。 研究成果としては、作成したコーパスを元に、「ツモリダの用法と構造変化-文法史研究の一試論-」(田島毓堂編『日本語学最前線』和泉書院2010年4月25日発行)を執筆した。先行研究では、ツモリダは文法化した形式と認められる一方、共時的な用法記述に留まり、語誌や変遷については研究対象とされてこなかった。ツモリダの用法には基本的に<意志>と<思い込み>があるとされるが、中世までにはツモリダのこうした用法は見られず、近世以降増加する。またツモリダが現れ始める近世初期は<意志>の用法に偏り、<思い込み>は近世初期から見られたわけではなかった。<思い込み>は「(人物)のツモリ」という特定の形式から分化した可能性が高く、<意志>からの一派生形式であることを指摘した。文法化のあり方は意味の観点に注意が集まるが、名詞が機能語化(助動詞化)することに関しては、文法化する語の意味(ツモリのような連用形名詞)と連体修飾構造(外の関係・「AのB」といった構造)が関わり用法変化へとつながると考えられる。こうした観点は言語形式と意味の関係を問い直すものであり、本研究の主目的である名詞の機能語化に関わる1つの試論と位置づけた。
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