本年度は、前年度までの研究を踏まえ、近世の法令・偽法令(いわゆる「宗門檀那請合之掟」「諸寺院条目」など)に関する史資料の博捜をさらに進めると同時に、修験や諸宗派の僧侶、神職など宗教者間の競合に関する史資料や、教団構造・寺院経営に関する史資料などについても調査・考察を進めた。 原史料の調査については、八戸市立図書館・神奈川県公文書館・福島県歴史資料館・福島県立図書館・滋賀県米原市成菩提院などで行い、公刊史料を含めて検討を進めた。 成稿に至った研究の主なものとして、前年度の学会報告を整理・深化させて「寺檀制度に関する通念の形成-一家一寺制法令再論-」(『日本仏教綜合研究』8)として公表した。当該論文では、一家一寺制をめぐる通念の醸成と法令・判例との関係を素材に、幕領代官・勘定所の動向を軸として、その背景に想定される社会情勢との関係にも着目しつつ論じた。さらに発展的な論点として、寺社政策をめぐる情報流通や、狭い意味での「宗教政策」と別次元の動向が結果的に通念に与える影響についても言及した。 また、地域における、寺檀関係の実態と法令との関係、近世教団の形成に伴う寺院組織の変容、さらには移動する宗教者の視点や神社支配をめぐるせめぎ合いなどからみえる、さまざまな信仰や宗教者の競合状況について考察を進め、その知見を『新横須賀市史』通史編近世の分担執筆において反映させた。
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