本年度は、これまでの研究で得られた知見を踏まえ、史料調査と分析とを進めた。原史料等の調査については、神戸市文書館・神戸市立中央図書館・神戸市立博物館・神奈川県立公文書館・滋賀県米原市成菩提院などで行った。そして、具体的な争論を素材とした、地域社会と宗教施設との関係に関する検討、中小寺社領主と幕藩権力との関係に関する素材発掘、宗教政策をめぐる情報流通のあり方と、教団の慣習をめぐる検討、宗教をめぐる通念と関わる、偽法令に関する検討などを進めた。 成稿に至った成果として、智山勧学会編『近世の仏教-新義真言を中心として-』(青史出版)に、論文「近世新義真言宗の寺院組織と制度-教団組織と寺院との関係-」を公表した。本論文では、新義真言宗教団における「取上寺」制度について具体的に明らかにし、「無住契約」「移転寺」制度を含めて、地域的教団組織と、全国的教団組織との関係、その展開について分析した。また、共著「米原市柏原成菩提院の紹介と解説(二)」において、中小規模の寺社領主ないし寺社領の特質に関わる史料を紹介した。 なお、宗教関係偽法令に関して、「宗門檀那請合之掟」にしばしば併載される代表的な史料「諸寺院条目」につき、考察を深めた。これについては早期の成稿・公表を予定している。また、地域社会と、教団編成を外れた「寺院」との関係に関する分析についても早期の成稿を期している。これらを含め、さらに通時的展望を意識しつつ、本研究の成果を敷衍させていきたい。
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