本研究初年度は、エニコロピアン家の実像に迫るための基本的な作業として、系図の復元と諸史料の収集に努めた。系図の復元については、アルメニア語、グルジア語史料等を精査したところ、19世紀のみならず、18世紀初頭についてのイラン宮廷との結びつきをうかがわせる興味深い記述を発見した。これは、報告者がこれまで行ってきた19世紀以前のイランにおけるコーカサス出身者の活動とも関連する興味深いデータである。また、グルジア現地における資料調査では、トビリシの国立文書館において、19世紀のグルジアにおける王政復古運動に関わる資料等を閲覧した。ここでも、エニコロピアン家出身者の通訳官としての活躍が見られることを確認することができた。これもまた、ロシア帝国進出による政治的激動の中における同家の対応を物語る興味深いデータである。このように、同家に関係する情報は未だ断片的ながら、イランからロシアまで横断的であることが、少しずつ明らかになりつつある。これは、本研究の意図する前近代におけるロシア・中東社会史の再構築とその中でのマイノリティおよびディアスポラの役割についての研究を促進するものであり、また、本年度に起きたグルジア紛争など、コーカサス地域の地政学的位置についてのわれわれの知見を増す成果である。次年度は系図復元の作業を終わらせるとともに、その交遊範囲や縁戚のネットワークについても調査を進め、また、可能であればロシアないしイランにおける調査も実行する予定である
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