本研究第二年度は、初年度に引き続き、エニコロピアン家の系図復元の作業につとめた。また、海外での資料収集も積極的に行った。特に、ウィーンにおける調査では、イランにおいて土着化した同家の係累から系譜情報ほか貴重な情報を得た。特に20世紀イラン史においてアーリア主義を声高に主張した有名軍人がこの家系出身者であることが明らかになった。また、アルメニア系(ただし、改宗家系)とトゥルク系有力貴族が密接な婚姻関係を構築していたことも判明した。この成果を持って、より時間軸を下げた形で同家の歴史を追うことを視野に入れることが可能になった。また、昨年に引き続き、グルジアにおける調査では国立文書館において作業を行い、興味深い文書数点を参照することができた。こうした史料の分析とさらなる資料調査は来年度以降も継続する必要があるが、同家の活動の広がりを追う上で不可欠な作業である。このほか、二年目を迎えて、研究成果の発表にも着手した。ロンドン大学で行われた国際学会において同家の活動に関する報告を行い、幸い好評をえて、現在は組織者と連絡を取りながら投稿原稿を準備中である。また、エニコロピアン家の多彩な活動の背景になったコーカサス地方の中東とロシアの間にある独特の地政学的条件について、立正大学と写本センターにおいて報告を行った。言語だけでも最低限、グルジア語、アルメニア語、ペルシア語、ロシア語の史料を参照する必要があり、作業は容易ではないが、2年を経過し、当初想定したとおり、国家や民族の枠組みを越えたトランスナショナルで多彩かつ興味深い家系の歴史復元に成功しつつある。
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