平成23年度では、過去3年間に収集・発掘に努めたエニコロピアン家関連文書・史料の読解を進めるとともに、更なる史料の収集と、研究成果の取りまとめや公表につとめた。具体的にはトビリシの国立文書館で採集した19世紀前半から半ばにおけるロシア語文書について読解を進めた。その中には、イランとロシアの外交関係におけるエニコロピアン家成員の複雑な役割を想定させるものや、係累の「移動」に関する興味深い記述が見られる。特に農奴の「逃亡」をめぐる文書などからは、エニコロピアン家成員のみならず、より広範なイラン・ロシア関係の中でコーカサス出身者が「独自」に動いていたことが明らかである。すなわちエニコロピアン家の活動から、身分制の動揺、地域秩序の再編、地域社会の変動など、様々な興味深い事象が抽出できることを改めて裏付けることができた。また、イランに出張して、史料の収集に努めた。 成果の公表については、スタンフォード大学や東北学院大学において、イランとロシア間の境界等を移動したコーカサス出身者について講演を行った。また、『歴史学研究』にグルジア武人のアフガニスタン・カンダハールから、イスタンブルまでのユーラシア大陸をまたにかけた活動を解析した論文を発表したが、こうした「越境」活動について、本科研で得られた様々な史料等を用いた。同様に、周辺大国とコーカサス域内秩序の関係について、東洋文庫欧文紀要(Memoirs of the Research Department of the Toyo Bunko)に英文論文を投稿した。以上のように、平成23年度は、諸帝国のフロンティアが重なる地域としてのコーカサスの域内特性について、エニコロピアン家の活動を中心に検討しつつ、時間的・空間的に検討の幅を広げて成果を還元できたと考える。
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