平成23年度は、本研究の開始年度時から研究を継続してきた、DIPファイナンスの位置づけについて研究成果をまとめるとともに、複数の研究会の場において報告をし、研究者や実務家と意見交換をした。DIPファイナンスとは、通常は担保権がない限り一般債権となり、他の一般債権者と平等に取り扱われるにすぎない融資者が、倒産手続開始決定後に融資をした場合には、共益債権者になるなど、他の一般債権者に優越する地位が与えられる制度である。この制度を認める現行法の合理性について、日本法の模範となったアメリカの制度の歴史的発展及び法と経済学の分析を参考に検討を行った。その結果、歴史的には、会社の再建可能性を高めるのに重要であるとして、融資者にインセンティブを付与するためにDIPファイナンスには優越的な地位が与えられてきたが、これが濫用される例もみられるようになっていった。この点、法と経済学のアプローチからは、DIPファインナンスの優先性は過少投資を防止するためであると説明され、そうであれば、従前の債権者が新規融資をする場合のように、過少投資問題が生じない場合には優先権を付与する必要がないことが明らかになり、融資者への優先権の付与に慎重となるべき示唆を得た。また、この研究で近年のアメリカにおけるヘッジファンドの台頭が明らかになり、それが今後の債権回収手続に与える影響について、アメリカの論文を分析した。 また、かねてから分析を行っていた判例の検討を通じて、平等主義の現れといわれる配当要求制度について、債権執行手続においては差押範囲拡張がない限りは合理性がないことも示した。
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