本研究の目的は、「日本の家計による有価証券等のリスク金融資産への投資が少ない要因として、日本における中古住宅の流動性の低さ(中古住宅市場が未発達であること)が影響している。」という仮説を、理論と実証の両面から検証することである。 この研究の目的に対し、以下3つの研究計画:1.国際データから検証する。2.理論モデルを用いて検証する。3.日本の家計の個票データを用いて計量的な分析を行うこと、を立て、2010年度までにすべての計画を実施し、1本の論文にまとめた。 論文の内容は、まず、1.の国際データから、全住宅取引戸数に占める中古住宅の比率が低い国ほど(すなわち中古住宅の流動性が低い国ほど)、家計による有価証券等のリスク金融資産への投資が少ない傾向にあることが確かめられた。そして、2.の理論モデルからは、中古住宅の流動性が低くなるほど、中古住宅を売却する際に発生する不確実性が増し、そのため、家計はリスク金融資産への投資を抑制することが合理的であることを明らかにし、3.の個票データを用いた実証分析では、2.で構築した理論モデルの妥当性を支持する結果を得た。 以上の結果を論文にまとめ、2010年度(第5回)財団法人住宅金融普及協会「住宅・金融フォーラム」による懸賞論文(国土交通省・住宅金融支援機構提携)に応募し、2011年3月2日付で最優秀賞の受賞の通知を頂いた。「貯蓄から投資へ」を背景に、家計によるリスク金融資産への投資への流れが期待されるなか、本研究は、家計がリスクを取るために、中古住宅市場が果たす役割(すなわち家計資産の約半分を占める住宅資産の流動性)の重要性を明らかにしたものであり、最優秀論文の受賞はその意義が認められた結果である。
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