浅海域に生息する小型魚類ロウソクギンポは、雄が構える巣穴に複数の雌が訪れて産卵する縄張り訪問型複婚で、卵は孵化まで雄が単独で保護する。演者らの過去の研究で、前日に卵を獲得した雄の卵獲得率が極端に高いこと、そして産卵中の巣周辺に複数の雌が観察されたことから、本種雌におけるコピー戦術の存在が示唆されている。本研究では、本種雌のコピー戦術を実証し、その進化的意義を明らかにするために野外で産卵行動を観察した。 その結果、雄の探索中にペア産卵に遭遇した雌のほとんどが、その巣に割り込んで産卵するか、産卵終了後にその巣に入り産卵した。これらの行動は、雄の求愛がなくても、産卵に至った点で、通常の繁殖と大きく異なっており、本種雌におけるコピー戦術の存在を強く示唆した。さらに、当日に産卵を観察した巣で産卵できなかった雌が、前日に産卵を観察した巣を選択することも確認した。 本種では、卵数が多い巣ほど保護放棄されにくく、また捕食に対する薄めの効果が高くなるため、雌は日齢が若い卵が多く存在する巣を選択すれば、高い卵の生残が見込める。しかし、繁殖可能な時間帯が短いため、雄を探索する十分な時間は無く、さらに、産卵せずに巣を出ると雄に激しく噛み付かれて傷つくことから、雌が巣内の卵を確認するのは困難である。本種雌はコピー戦術によって、少ないリスクと時間で多くの卵が存在する巣を選択しているのかもしれない。
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