本研究は、東南アジアの漁家が漁業活動の中でどのように収入の多角化を図ろうとしてきたのかを明らかにするものである。資源の減少が現実味を帯びる中で、生計を維持するためにどのような対応をとっているのだろうか。 調査対象地域では、もともと漁船漁業が営まれていたが、養殖事業や観光事業が開始されている。養殖事業については、19年2月に住民グループが組織され52名が組合員となっている。生け箕を6ヶ所設置しており、約2万尾のミルクフィッシュ、スズキとアワビの養殖が行われている。現在のところミルクフィッシュが中心であり、稚魚から6ヶ月かけて約500gの大きさにまで育てる。第1回目の出荷を終えたばかりで、1.4トンを85ペソ/kgで販売し、約12万ペソの収入を得た。その収入は、組合員に還元される。また、餌やり、警備、網の修理、生け貧の清掃を組合員が担い、労賃を得る。多くの組合員は、沿岸で漁獲漁業に従事しているが、この養殖事業への参加によって家計の補完的な収入を得ているようである。これらは漁家の代替収入機会となっており、今後はそれらを市場流通にのせることによって、生計戦略としての可能性が強まると思われる。この点は、生計の多角化によって漁村地域の発展方向を展望する上で有効な端緒となった。 ただし、当該地域は養殖の経験もないことから、今後、地域の産業として発展する見込みは不透明である。この新規事業の導入が、地域住民にどのような影響をもたらすのか、今後の展開が注目される。
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