本研究は、東南アジアの漁家が漁業活動の中でどのように収入の多角化を図ろうとしてきたのかを実態から明らかにするものである。フィリピンの調査対象地域では、漁船漁業が営まれていたが災害をきっかけに政府の支援により住民グループが組織され養殖事業が開始されている。当該グループでは、ミルクフィッシュの養殖を中心に行っている。半年サイクルの出荷体制が確立されており年2回の出荷で約3トンの水揚げがある。成魚ぽ100ペソ/kgで流通業者に販売される。種苗調達と飼料は、昨年まではフィリピン水産局から無償提供されていたが、現在では自己資金での調達が可能となっている。種苗は、近隣の養殖漁家から5インチほどの大きめのサイズを購入している。生残率は90%以上と育成のリスクは非常に小さい。また餌料は民間業者から購入している。人件費は労働種類ごとにローテーションが決められ、組合員が順番に担当する仕組みとなっている。ローテーションに参加しているのは36名であり警備や生け簀の清掃などに従事して賃金を得る。組合員は沿岸漁業を主とする漁業者であるが、この事業によって補完的な収入を得ている。また、出荷後の収入のうち50%がこのシステムで労賃に向けられるが、残りの50%は自己資本として貯蓄にまわされる。開始当初は援助資金に頼っていた養殖事業であったが、現在では運転資金を事業の収益から捻出しており、加えて貯蓄も可能となっていることなどから、この事業が当該地域の自立的な産業として軌道にのりつつあることが明らかとなった。
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