シェーグレン症候群(以下SS)患者における血液所見の異常に、血沈亢進・高ガンマグロブリン血症や、抗核抗体・抗SS-A/B抗体などの多彩な自己抗体の産生があり、この背景として末梢血B細胞の異常活性化と形質細胞への過剰分化の存在が指摘されており、B細胞分化に関与する転写因子の解析がSSの病態解明につながると考えられる。B細胞分化の阻害分子であるId3欠損マウスにおいてSS様の病態が誘導されることが示され、SSの病態モデルと考えられることが報告された。そこで、ヒト末梢血におけるId3の発現がSSの病態に影響を与えるかどうかを検討した。 これまでにSS患者末梢血B細胞cDNAにおいてRT-PCR法にてId3発現の解析を行い、健常人よりId3発現が低下していることを明らかにしている。この発現低下がSSの病態にどのような影響をもたらすのかを明らかにする目的で、今年度はId3発現と各種臨床所見との関連について検討を加えた。血液検査所見(抗SS-A/B抗体、リンパ球数など)とId3発現量との間には明らかな相関は認められなかった。口腔乾燥所見においては、Id3発現量は唾液分泌量との相関は認められなかったが、口唇腺生検病理像において、Greenspan分類のgradeが進行するに従いId3mRNA発現値が低下する傾向が認められた。同様の傾向は唾液腺造影像でも確認された。 このことよりSS患者においてId3の相対的発現低下により、B細胞分化が促進され、B細胞の活性化および形質細胞の過剰分化を生じ、唾液腺炎の増悪に関与する可能性が考えられた。Id3発現量と口唇生検病理像との間の逆相関の傾向は、これを支持する所見と考えられた。
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