2008年度は中国籍居住者の生活展開を移住地生活展開論の視点から分析した。調査地である石川県小松市は1990年代にはブラジル籍居住者が突出して多かった。ところが、2001年頃からブラジル籍居住者は減少傾向で、中国籍居住者が増加してきた。関係機関からの聞き取りおよび提供資料によって、中国籍居住者の増加は、研修生および技能実習生の増加によるものだということが明らかとなった。そこで、中国籍研修生および技能実習生の生活展開を明らかにするために、市役所、国際交流協会、研修生の受け入れ組合等の機関における担当者、さらに技能実習生を対象に聞き取り調査を実施し、それらの知見を日系ブラジル人の生活展開を検討した際に考案した研究代表者の枠組みを用いて分析した。結果は次の通りである。1、中国籍研修生および技能実習生たちは、エスニック・コミュニティやネットワークを形成するほど強固なつながりはみられなかった。移住プロセスが市場媒介型であるため社会関係が母国から継続されていないこと、稼ぐことが何よりも重要となっていること等の要因が挙げられる。2、日本人住民とのつきあいはほとんどなかった。受入れ企業が管理していること、労働時間が長いこと(ただし2009年春からは景気悪化のため労働時間が激減している)、仕事以外は自室でパソコンやゲームをする生活スタイル等が要因として挙げられる。3、定住化は進展していなかった。以前は中国に帰国後、日系企業に就職し、再び来日して定住するという人もいたが現在ではそのような人はほとんどいない。中国における産業化の進展により中国企業が魅力的となっていること等が要因として挙げられる。これらの結果にこれまで蓄積してきた日系ブラジル人の生活展開の分析結果を加えることで、外国籍居住者に関わる小松市の約10年間の地域変容を把握することが可能となった。
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