本研究は、ドイツ約款法を題材とする比較法研究により、不当条項規制の効果確定のための判断構造を明らかにすることを目的とする。本年度は、条項全部無効・一部無効の問題の前提として、そもそも何をもって一つの条項と考えべきかという条項画定の問題について、検討を行った。 ドイツにおける議論を検討した結果、この問題について次のような結論に達した。すなわち、規制効果論、とりわけいかなる範囲において契約(約款)が無効とされるのかという無効範囲の問題に関連して論じられる条項画定の問題は、無効範囲の問題と無関係に判断することができない。無効範囲の問題については、次の2つの立場が対立する。すなわち、透明性の要請など一定の制約が課されるものの、約款使用者が予め約款を区分することによって、(存続する部分が内容規制の基準に照らして有効でなければならないのは当然として)自由に無効範囲を制御することができるという立場と、約款使用者が自由に無効範囲を決定することができるとすべきではなく、一定の規範的な観点から、無効範囲を決定すべきであるという立場である。この二つの立場からは、それぞれ、約款使用者が条項についても自由に画定することができるという立場と、条項についても一定の規範的な基準から決まるという立場とが展開される。その際、後者における規範的な基準として、「独立した有効性審査の可能性」という基準が挙げられる。 以上の検討によっても残された課題として、団体訴訟における条項画定の問題が挙げられる。具体的な契約を前提としない団体訴訟は、無効範囲の画定、それを介した契約内容の確定を、直接的な使命としない。そのような団体訴訟においても、上記のような個別訴訟についての検討から得られた条項論を適用してよいのか、依然として検討の余地がある。この残された課題についての検討を合わせて、論文公表を予定している。
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