研究概要 |
現在,わが国は超高齢社会をむかえているといわれており,介護保険法では「できる限り住み慣れた地域での生活が継続できるよう」な方向性が示されている.しかし,在宅で介護をする場合,サービス利用以外の非常に長い時間認知症高齢者に対応するのは介護者(家族)であるものの,介護者に対するサポートはいまだ不十分なままであるといわれている.また,認知症高齢者の行動的・心理的症状(Behavioral and Psychological signs and symptoms of Dementia ; BPSD)は介護者の介護負担感に強く影響すると報告されている.そこで今回,海外においてBPSDに対するアプローチとして注目されているバリデーションセラピーに着目し,介護者が使用可能な被介護者のBPSDへの具体的な対応法とその指導法を開発しようと考えた. 本年度の研究では,認知症高齢者の介護者(家族)の経験している具体的なBPSDを聞き取り調査にて蓄積し,バリデーションテクニックとの関連を検討することを目的に12名の対象者を得た.調査により得られたBPSDとバリデーションテクニックとの関連,基礎属性などについての結果の分析を行ったところ,被介護者は中等度のADL障害,BEHAVE-AD得点で10.17/75点(SD=9.95)のBPSDの重症度を呈していた.BPSDの具体的内容については計72件が挙がり,そのうち日内リズム障害カテゴリー「睡眠覚醒の障害」が10件,不安および恐怖カテゴリー「その他の不安」が8件と多く挙げられた.これらに対し直接的に要求にこたえるような対応が多くとられており,バリデーションテクニックにあげられるような方法はほとんど使用されていなかった.また,29/72件(40.3%)のBPSDに対しては「何もしない,放っておく」という対応がとられていることが明らかになりOBPSDに対して対応できない対象者の状態も明らかになり,BPSDに適切に対応できるバリデーションテクニック指導の必要性が示唆される.今後,さらにデータを集積し,主観的介護負担感の低い状態を促す対応法について検討する必要があると考えられる.
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