研究課題/領域番号 |
20H00039
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研究機関 | 奈良県立橿原考古学研究所 |
研究代表者 |
岡林 孝作 奈良県立橿原考古学研究所, その他部局等, 副所長 (80250380)
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研究分担者 |
森下 章司 大手前大学, 総合文化学部, 教授 (00210162)
南 武志 近畿大学, 理工学部, 非常勤講師 (00295784)
青木 敬 國學院大學, 文学部, 教授 (10463449)
水野 敏典 奈良県立橿原考古学研究所, 企画学芸部企画課, 副主幹 (20301004)
今津 節生 奈良大学, 文学部, 教授 (50250379)
長柄 毅一 富山大学, 学術研究部芸術文化学系, 教授 (60443420)
東影 悠 奈良県立橿原考古学研究所, 企画学芸部企画課, 主任研究員 (60470283)
井上 主税 関西大学, 文学部, 准教授 (80470285)
志賀 智史 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部博物館科学課, 室長 (90416561)
奥山 誠義 奈良県立橿原考古学研究所, 企画学芸部資料課, 指導研究員 (90421916)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 古墳 / 巨大古墳 / 王陵 / 国産化 / 技術革新 |
研究実績の概要 |
本研究は、奈良盆地東南部に存在する巨大前方後円墳のうち、桜井茶臼山古墳とメスリ山古墳を対象に、考古学・文化財科学の研究者が協力して出土遺物の再整理や新たな視点からの分析を加えることによりその全体像を再構成する。またその成果を基盤として、巨大前方後円墳である日本の初期王陵の特質、副葬された大量の国産品からみた初期王権の経済基盤としての技術革新の解明といった学術的課題に取り組み、初期王陵の実態を解明すること目的とする。 初年度である本年度は①出土遺物の考古学的・文化財科学的分析、②墳丘・埋葬施設の考古学的・文化財科学的分析、③関連資料調査の各項目について作業に着手した。 ①:橿原考古学研究所・同博物館所蔵の銅鏡、石製品・玉類、銅鏃・鉄製品、壺形土器について再整理を進めた。銅鏡については、破片の高精度三次元形状計測、X線写真撮影によるデータ化、3D画像および高精細デジタルマイクロスコープ等による観察を実施した。既存の同笵鏡・同文鏡・類似鏡との比較検討による鏡種・部位の同定作業では、特に種類が豊富な中国製神獣鏡・獣帯鏡の同定作業を進めた。壺形土器については、接合・復元作業をほぼ終えた。②:墳丘については、新たに両古墳の航空レーザー測量を実施し、赤色立体地図を作成した。埋葬施設については、桜井茶臼山古墳石室・木棺の構造や構築過程の考古学的検討を、とくに棺構造に関して行った。石室に使用された朱については、黒塚・天神山両古墳石室の朱とあわせて硫黄同位体比分析、水銀同位体比分析および鉛同位体比分析による産地推定を行った。その結果、茶臼山古墳に用いられた朱は大和水銀鉱山産、黒塚・天神山両古墳から得られた朱は丹生鉱山産の可能性が高いと推察した。③:とくに②に関連して、棺底に穿孔のある棺の類例等の関連資料調査を国内で計4回実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は研究計画の初年度であるが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、とくに令和2年4~5月、3年1~3月の緊急事態宣言発出中は活動が大幅に制限された。そのため、初回の研究打ち合わせを開催できたのは6月末であり、研究の着手がやや遅れた。それ以外の期間も感染拡大防止のため一定の活動の制約があったことに起因し、研究計画の一部にやや遅れが生じている。 対応として、研究代表者および研究分担者3名が所属する橿原考古学研究所の所蔵資料を対象とした基礎的な再整理作業を前倒し的に進めることに努めた。その結果、鏡片の高精度三次元形状計測、X線写真撮影等によるデータ化、石製品・玉類の成分分析はほぼ目標の進捗率(35%)を達成した。銅鏃・鉄製品を対象とした再整理は、目標の進捗率(50%)を上回り、ほぼ60%を終えた。壺形土器についても接合関係の確認を完了し、復元作業と並行して前倒しで実測に着手し、ほぼ50%を終えた。 令和2・3年度に分けて実施する予定であった桜井茶臼山古墳・メスリ山古墳の航空レーザー測量については、まず当初予定通りメスリ山古墳を対象に5月に実施し、その後活動の制約によって生じた令和2年度研究費の余剰を充当して次年度実施予定であった桜井茶臼山古墳を対象に1月に実施することにより、本年度内に終えることができた。また、鏡片については、鏡式同定と個体識別の視点・方法をおおむね確立するとともに、各所から出土した破片から副葬時の状況を復元する手掛かりもいくつか得ることができた。水銀朱の同位体比分析については現時点での分析結果を取りまとめ、次年度以降の課題を明確化することができた。 以上のように、年度計画の一部組み替えなど柔軟に対応した結果も含め、全体としては「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画の第2~4年度の方針にしたがい、①出土遺物の考古学的・文化財科学的分析、②墳丘・埋葬施設の考古学的・文化財科学的分析、③関連資料調査の各作業項目について、適宜研究打ち合わせを行いつつ研究を進める。なお、当面の間は新型コロナウイルス感染症流行による活動の影響が一定程度避けられないことを前提として、その状況変化に柔軟に対応できるよう工夫しながら推進していきたい。 ①:橿原考古学研究所・同博物館所蔵の銅鏡、石製品・玉類、銅鏃・鉄製品、壺形土器について再整理・各種分析を引き続き実施する。國學院大学保管の壺形土器(完形に復元済み)の実測・観察・写真撮影等による記録作成は第2年度に行う予定である。②:初年度に完了した桜井茶臼山古墳・メスリ山古墳の航空レーザー測量の結果を踏まえ、第2~4年度で墳丘形態の詳細を解明する。並行して、桜井茶臼山古墳の再調査記録を活用した石室の線画・復元図等の作成を行い、構造や構築過程の考古学的検討を行う。また、第2年度は木棺表面の元素分析を実施する。③:①②の作業のために必要な類例等の関連資料調査を引き続き実施する。第2・3年度に予定している韓国・中国における関連資料調査は、新型コロナウイルス感染症の状況を見きわめつつ、実施時期の変更や規模を縮小して実施することも検討する。 以上の作業を通じて、巨大前方後円墳である日本の初期王陵の特質、副葬された大量の国産品からみた初期王権の経済基盤としての技術革新の解明といった学術的課題に取り組み、初期王陵の実態解明を目指していきたい。
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