研究課題/領域番号 |
20H00076
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
照山 博司 京都大学, 経済研究所, 教授 (30227532)
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研究分担者 |
松島 斉 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (00209545)
今井 晋 北海道大学, 公共政策学連携研究部, 教授 (10796494)
神林 龍 一橋大学, 経済研究所, 教授 (40326004)
太田 聰一 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (60262838)
菊地 雄太 早稲田大学, 商学学術院, 講師(任期付) (60782117)
岡崎 哲二 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (90183029)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 転職市場 / キャリア形成 / 転職仲介 / 技能とタスク / マッチング理論 |
研究実績の概要 |
日本の転職市場と転職仲介の現状の把握と評価を行うための研究活動を継続した。 転職情報を含む大規模パネル調査「全国就業実態パネル調査(JPSED)」(リクルートワークス研究所)のデータを用いた分析として、本年度は、新型コロナウイルス感染症拡大が転職市場や転職行動に与えた影響の分析に力点を置いた。とくに、JPSEDの複数回の特別調査の結果を本調査に接合することで、2020年以降の就業、雇用、転職に関する新型コロナパンデミックの影響について多方面からの分析を進め、その一部を成果として公表した。あわせて、転職とタスクに関する分析も継続している。 民間転職仲介企業の協力を得て、業務データの提供を受けた。機密性の高いデータとしての慎重な取り扱いのもと、分析のためのデータベースを構築し、分析を開始した。本年度は、主に転職による年収の決定要因に関する分析を行った。まず、求人サイドと求職サイドのスキル(職種)のマッチの程度と、転職による年収の関係について分析を行い、暫定的ではあるが既存研究で指摘されてこなかったような知見を得た。また、求職者の転職前の年収、希望年収の上限と下限、求人企業の提示する予定年収の上限と下限と、転職後の年収の関係についても分析を進めた。 公的転職仲介の機能と特徴を検討するため、「職業安定業務統計」の求人数と求職者数が、最低賃金から受ける影響について分析を行い、都道府県別データによって、とくに不況期に最低賃金と新規失業(新規失業給付受給者数)に正の相関があるなどの新たな事実を提示した。 並行して、各メンバーは、分担する研究内容に直接関連する自身の研究を推進した。それらの中から、計量経済分析の手法の開発や、労働市場を中心とする関連テーマでの実証分析、制度設計に関する理論分析などにおいて成果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度同様、直接対面で議論を行う機会はほとんど持てなかったが、メンバー間の研究打合せの大部分をオンラインで実施できたため、進捗に大きな支障はなかった。 「全国就業実態パネル調査(JPSED)」とその特別調査に基づいて、新型コロナパンデミックが日本の就業と転職に及ぼす影響に関する分析を進め、雇用形態間格差や、休業が雇用者に与える影響などについて、成果の一部を書籍に収録するなどのかたちで公表した。 転職仲介企業の協力の下に詳細な業務データの提供を受け、分析可能なデータベースの構築が完了した。本分析に携わるメンバーが、定期的にオンラインで研究会を開催しつつ、具体的な分析作業を開始した。また、提供元企業へのヒアリングを実施した。分析は順調に進んでおり、転職後の賃金決定に関する分析を中心に、いくつかの暫定的な結果を得ている。 公的転職仲介の機能と性質の分析を行い、最低賃金の上昇は求人数に負、求職者数に正の影響を持ち、求職者増の一部は既存雇用の喪失によることを示した。 また、本研究プロジェクトと分析手法または研究テーマにおいて関係の深い研究分野で、メンバーが独自または協働で研究を継続し、一部の成果を学術誌、書籍、ディスカッションペーパー、学会報告などの場で公表した。
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今後の研究の推進方策 |
転職行動、転職仲介などの転職市場研究に関しては、スキル、タスク、賃金との関係に着目した分析を行う。日本版O-NETの職業情報を、スキルマッチの程度と賃金決定の分析や、転職とタスク移動の関係の分析などに活用していく。そのために、職種を介してO-NET情報と、利用するパネルデータや業務データとの接合作業を進める予定である。また、転職市場においてマッチのスピードを速める要因について、転職仲介企業のマッチング方法の情報を用いた分析を行う計画である。さらに、労働市場の逼迫状況(超過需要・超過供給の程度)を測定したうえで、それらの影響を、以上の賃金や転職状況の分析において考慮することを予定している。 引き続き、「労働力調査」、「就業構造基本調査」などの政府統計のミクロデータの利用を申請のうえ可能とすることに努め、大規模な公的統計に基づく転職市場の実態解明を目指す。また、公的な転職プラットフォームの特徴を、「職業安定業務統計」の公表データなどを用いて分析し、民間の転職仲介との比較を行うことも計画している。 転職仲介業務データの分析に際しては、本年度に提供が実現したデータの量が当初の想定以上に大規模であったため、次年度の本科研費によって、統計解析と数値計算を担当するメンバーが高性能なワークステーションを導入し、大規模データを効率的に分析する環境整備を図る。
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