研究課題/領域番号 |
20H00303
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
宇佐美 徳隆 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (20262107)
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研究分担者 |
大山 研司 茨城大学, 理工学研究科(工学野), 教授 (60241569)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 多元混晶 / 軽元素 / 局所構造 / 白色中性子ホログラフィー |
研究実績の概要 |
本研究では、シリコン単結晶基板上へのスクリーン印刷と熱処理からなる簡便な非真空プロセスを基本プロセスとして、固溶限界を超える準安定な高スズ組成化と水素終端による高品質化を同時達成するシリコン系多元混晶の実現を目指している。本年度は、準安定多元素材料の成長実験に先立ち、まず熱平衡状態に近い状態でのシリコンスズ混晶薄膜の成長と評価を実施した。併行して、準安定多元素材料の成長と軽元素周囲の局所構造の可視化に必要となる環境整備を実施した。 具体的には、スクリーン印刷のためのペースト中のアルミニウム粉末とスズ粉末の比率と熱処理温度を系統的に変化させた実験を行い、適切な条件下において、シリコンスズ混晶薄膜のエピタキシャル成長が可能であることを示した。典型的な膜厚は10ミクロン程度であり、スズ濃度は平衡固溶限界である0.1%程度と見積もられた。また、放射光X線実験施設SPring-8(兵庫県)のBL13の実験装置を用いた測定により、スズ周りの原子像観測に成功した。スズ周りの原子像の解析から、スズはシリコンと置換している可能性が高いことがわかった。一方で、電子顕微鏡の観察結果より、一部のスズがクラスターを形成することや基板表面に析出する場合があることがわかった。 固溶限界を超える高スズ組成の準安定多元素材料の成長に向け、短パルスレーザとビームスキャンのための光学系から構成される高性能薄膜加熱システムを導入し、試料の局所加熱が可能であることを確認した。また、水素感度の高い中性子ホログラフィーを実現させるため、大強度陽子加速器施設J-PARC(茨城県)のホログラフィー装置に高性能ガンマ線検出器4本を導入し、多検出器計測系を構築した。次年度より、これらの装置を活用した研究を本格化させる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平衡固溶限界程度のスズ濃度のシリコンスズ混晶のエピタキシャル成長を実現し、SPring-8での蛍光X線ホログラフィー実験を含めた多様な評価から、スズがシリコンの格子位置を置換する可能性が高いことを示すことができた。これらの結果を、アジア結晶成長国際会議や、中性子科学会年会などで発表した。また、高性能薄膜加熱システムとして、200Wパルスファイバーレーザ、2軸スキャンヘッド、同軸観察用カメラユニット等から構成されるシステムを設計・導入し、基本性能を満たすことを確認した。中性子ホログラフィーの高度化のためCeBr3単結晶型ガンマ線検出器4本を導入し、多検出検出器を構築した。申請時計画では高分解能のGe型検出器を想定していたが、より高強度が得られるCeBr3型に変更している。試験測定により、予想どおり、分解能で従来装置の5倍を達成し、また信号のピーク強度での比較で約3倍の増強が可能であることが確認できた。これらの環境整備により当初計画で目指した準安定多元素材料の成長や、中性子ホログラフィーの元素選択性の向上による物質中の水素の観測が現実的なものになった。よっておおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
シリコンスズ混晶薄膜に加えて、ゲルマニウムスズ混晶薄膜、シリコンゲルマニウムスズ三元混晶薄膜の成長実験へと展開する。従来利用していたランプ加熱装置に加えて、パルスレーザをベースとする高性能薄膜加熱システムを利用した準安定組成の実現についての検討を行う。2021年7月に、スズ位置の確定を目的とし蛍光X線ホログラフィー実験を行う。ゲルマニウムスズ混晶薄膜を測定対象とすることで、より高精度の原子像が得られることが予測され、スズの正確な位置が議論できる。また中性子ホログラフィーに関しては、装置構築は概ね完了したので、多検出系を用いてこれまで観測困難であったドーパントに拡張していき、最終的には水素観測に挑戦する。
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