研究課題
本研究では、独自の酵母プリオンSup35および神経変性疾患原因タンパク質の実験系と様々な生物物理学的手法からアミロイドの生成および脱凝集反応を行い、両過程を含むアミロイド伝播を統合的に理解することを目指した。本年度は、昨年度に確立させた、一分子および一線維レベルでタンパク質の動的構造を解析できる全反射照明蛍光顕微鏡システムを用いてSc4およびSc37というアミロイドのコアを形成する領域が大きく異なるSup35アミロイドの脱凝集過程をより詳細に調べた。時間依存的な蛍光観察を行った結果、Sc4アミロイドは短い線維に次々と断片化され、Sc3アミロイドは断片化されるというよりは均一に溶けていく「溶解」という現象を示した。このことは、Sup35アミロイドの脱凝集には異なる二つの脱凝集モードを示すことを見出した。さらに、高磁場核磁気共鳴法(NMR)を用いて、Sup35において各シャペロンが結合する部位の同定を目指した各種滴定実験を行い、その結合部位を明らかにした。加えて、その知見を、in vitroにおけるSup35アミロイドの脱凝集実験や遺伝子改変した酵母を使ったin vivoにおける実験で確証づけることができた。さらに、活性が異なる各種Hsp104変異体や野生型とは異なるアミロイド構造を生成させるSup35変異体を用いることで、アミロイドの脱凝集過程をより詳しく調べた。特に、各種Hsp104変異体と特異なアミロイドコア領域をもつ変異体アミロイドの解析から、Sup35-Hsp104の相互作用と脱凝集過程に関する新たな知見を得た。
2: おおむね順調に進展している
アミロイドの生成・脱凝集を解析するための複数の技術開発とその応用が順調に進んでいるため。
高磁場核磁気共鳴法(NMR)を用いて、15N-Sup35NMモノマーの凝集過程や、それを用いて作成したアミロイドと非ラベルのシャペロンを混合し、遊離してくるSup35NMモノマーのNMRシグナルを経時的に検出、モニターすることで、凝集および脱凝集メカニズムを原子レベルで明らかにすることを引き続き目指す。また、シャペロン結合が明らかになったアミノ酸領域を改変したSup35変異体を用いて、脱凝集活性をさらに変化させることや、元来、脱凝集しにくいコア構造をもつSup35アミロイドに対して脱凝集を促進させる新規な手法の開発を目指す。
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https://www.riken.jp/press/2022/20220218_1/index.html