研究課題/領域番号 |
20H00567
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
船戸 弘正 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 客員教授 (90363118)
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研究分担者 |
三好 千香 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 助教 (60613437)
成清 公弥 東邦大学, 医学部, 助教 (70599836)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 睡眠 / 遺伝子改変マウス / りん酸化酵素 / 細胞内シグナル |
研究実績の概要 |
睡眠覚醒制御の実行回路を構成する神経細胞の働きを変化させる細胞内の仕組みは明らかではない。研究代表者らは順遺伝学的アプローチにより新しい睡眠制御分子、特に睡眠要求を調整する役割を持つ分子としてリン酸化酵素SIK3を同定した。スプライス変異により欠失する領域に存在するアミノ酸の置換により、プロテインキナーゼA(PKA)によってリン酸化を受けるセリン残基S551が重要であることを示していた。他のSIKファミリーであるSIK1およびSIK2もPKAリン酸化セリンの置換によって睡眠要求が高まることからSIKの共通基質が睡眠制御に重要な役割を果たしていると考えられる。前年度に示した神経細胞特異的、かつ時期特異的な変異型SIK3によって睡眠要求が増大した点について、仮想的な睡眠要求パラメータの増加、減少関数の時定数についての検討を行った。SIK3下流分子にアミノ酸変異を導入しSIK3からのリン酸化を受けないように改変したマウスは、予想通りの睡眠覚醒行動の変化を示した。睡眠要求の指標とされるノンレム睡眠中徐波睡眠要求の最も代表的なパラメータであるノンレム睡眠時徐波は大脳皮質の興奮性ニューロンである錐体細胞と抑制性ニューロンである非錐体細胞の働きによって直接的には生成されるがSIK3基質を各ニューロン特異的に操作することによって、特定のニューロン集団が睡眠要求を調節していることが明らかとなってきた。アデノ随伴ウイルス用いた検討や薬理学的検討も進めている。トランスクリプトーム解析を行いSIK3シグナルを改変したマウス脳と断眠した野生型マウスに共通した変化が生じていることも明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度当初の計画通りに、分子HがSIK3によりリン酸化を受けるセリン残基をアラニン残基に置換したマウスの睡眠測定とその解析を進め、結論を得ることができた。最終的に予想通りにノンレム睡眠時間とノンレム睡眠中徐波(デルタ波)の変化が確認された。分子Hのファミリー分子についてもリン酸化部位を置換したマウスの睡眠覚醒行動の評価を開始した。ファミリー分子の相同的なアミノ酸置換であっても成長への影響は大きく異なり、ホモ接合体が得られるものとそうではないものがある。 トランスクリプトーム解析のため、候補分子遺伝子を改変したマウスと、6時間断眠させた野生型マウスの大脳皮質、視床下部および脳幹部を採取しRNA-seqを行った。解析を鋭意進めており、特定の遺伝子についてはRT―PCRやデジタルPCRによって結果の再現性を確認している。さらに発現部位や発現細胞の検討も進めている。 このシグナル系を介した睡眠恒常性を担う神経細胞集団を同定するために、候補分子Hのfloxマウスを入手し様々なニューロン特異的Creドライバーマウスと交配させて、得られたマウスの睡眠覚醒を検討した。さらに、細胞内シグナル伝達と個体レベルの睡眠変化との関連を検討するために、アデノ随伴ウイルスを用いて大脳皮質や視床下部など脳部位特異的にSIK3下流シグナルを改変させて睡眠覚醒への影響を検討している。全体として計画通りに研究が進展しており、予想外の展開も得られている。
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今後の研究の推進方策 |
候補分子Hのfloxマウスと各種Creドライバーマウスを用いた睡眠覚醒検討を進めて、睡眠要求を司る神経細胞タイプの同定を進める。さらに、SIK3パスウェイと個体レベルの睡眠変化との関連を検討するために、アデノ随伴ウイルスを用いて大脳皮質や視床下部など脳部位特異的にSIK3下流シグナルを改変させて睡眠恒常性責任神経集団の活動性の変化を検討する。SIK3変異と候補分子Hの相互作用を検討するために両方の遺伝子変異を遺伝子改変マウス同士もしくは遺伝子改変マウスに広範囲に遺伝子を操作できるアデノ随伴ウイルスAAV-PHP.eBを用いて遺伝子を発現を操作し睡眠覚醒を検討する。アデノ随伴ウイルスを用いた候補遺伝子のノックダウンや阻害剤を用いた検討を行いより急性の効果を検討する。異なる脳部位および異なる睡眠要求水準でのRNA-seqの結果と合わせて睡眠恒常性制御の分子的基盤となる分子群とのその発現機構変化を検討する。
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