研究課題/領域番号 |
20H00581
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
曽我部 知広 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (30420368)
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研究分担者 |
荻田 武史 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (00339615)
野中 千穂 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 教授 (10432238)
宮武 勇登 大阪大学, サイバーメディアセンター, 准教授 (60757384)
田中 健一郎 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 准教授 (70610640)
星 健夫 鳥取大学, 工学研究科, 准教授 (80272384)
臼田 毅 愛知県立大学, 情報科学部, 教授 (80273308)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 行列関数 / 二重指数関数型数値積分公式 |
研究実績の概要 |
行列関数は初等関数の行列への拡張であり、行列実数乗・行列指数関数・行列対数関数が代表的である。本研究では、行列関数の「任意の要素を高精度から低精 度まで算出可能」とする超大規模行列関数の数値計算法の理論を確立し、理論と応用のフィードバック構造を有する密な連携により総合的数値計算法の創成・実用化を図ることを目的としている。具体的には、行列関数の積分表示に着目し、国産の強力な数値積分公式である二重指数関数型数値積分公式を活用した計算法の創成を行う。 今年度は、理論面では行列実数乗に関する数値計算法の開発に成功した。行列実数乗は行列平方根を含む一般的な行列関数であり、昨年度に続き本プロジェクトの目的達成のための重要な進展である。本数値計算法も昨年度に得られた数値計算法と同様に条件数に対して計算効率の影響を受けにくい、というロバストな解法であることが数値的に確かめられた。さらに理論面では大規模行列用の精度保証法について進展があり、関連の著書が出版された。そして当初予想されなかった研究として、行列符号関数の数値計算法が開発され、当初の計画以上の成果が得られた。応用面でも一定の成果が得られた。例えばデータ駆動型感度解析法の開発、ノイズが多い観測データから微分方程式の適切なパラメータを推定する手法の開発、純粋状態信号に対するBelavkin Weighted Square-root Measurementの幾何学的表現や非対称量子信号に対する通信路行列計算の簡単化などの研究成果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本プロジェクトの目的である行列実数乗・行列指数関数・行列対数関数の中で、行列実数乗の数値解法の開発に成功した。これは、行列平方根や行列p乗根だけでなく、行列の無理数乗も含む汎用的な数値計算法である。しかしながら本数値計算法では積分区間をユーザーが指定しなければならないという課題があった。この問題に対して誤差解析を行うことで、所望の精度を達成する積分区間を陽的に与えることができた。つまりユーザーにとっては積分区間を指定する必要はなく、所望の精度を指定するだけで計算可能となったため実用的である。さらに本年度は当初の計画では予想されなかった、行列符号関数の数値計算法が開発されたことも理論研究の大きな進展であり、精緻な誤差解析による収束性を理論的に明らかにした。この行列符号関数はシルベスター方程式という行列方程式の解法にも応用ができるため重要である。また精度保証関係では行列関数計算の部分問題としても現れる線形方程式の精度保証法の研究や精度保証付き数値計算法に関する書籍が出版されたこと、そして研究実績の概要の通り応用研究も進んでいるため、おおむね順調に進展していると判断した。ただし、当初の計画以上に進展しているということに近いことを付記する。
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今後の研究の推進方策 |
行列実数乗・行列指数関数・行列対数関数のうち、行列実数乗・行列対数関数の数値計算法が開発されたため次年度は行列指数関数の開発に取り組む。行列対数関数では、積分表示が知られていない。(少なくとも行列関数に関する国内外の専門書には書かれていない。)そこで、この積分表示を見つける必要があり、この調査や導出に最大半年の時間をかける予定である。また、予備的な調査により行列指数関数の積分表示を複素積分から導出する際に、指数関数と密接な関係のある三角関数が被積分関数に現れる可能性がある。その場合はこれまでの二重指数関数型変数公式が使用できないため、誤差解析に関しても新たな理論が必要になるであろう。これらの状況を踏まえたうえで、予定より計画が遅れたとしても慎重に研究を進めていく予定である。応用面では昨年度に引き続き物性物理・素粒子物理・気象物理・量子情報に基づく研究を進めていく予定である。新型コロナ感染症の拡大状況にもよるが、研究分担者と密な打ち合わせを行うために、対面での研究会を開くことを検討する。
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