研究課題/領域番号 |
20H01210
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
遠山 公一 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (90227562)
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研究分担者 |
望月 典子 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (40449020)
金井 直 信州大学, 学術研究院人文科学系, 教授 (10456494)
渡部 葉子 慶應義塾大学, アート・センター(三田), 教授 (00439225)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 彫刻 / 色彩 / モノクローム / ポリクロミー |
研究実績の概要 |
当研究は、三次元の造形である「彫刻」を論じることを大きな目標として掲げている。そのとき、この立体造形である彫刻を、むしろ表面の処理(彩色)から検討を試みる。伝統的な彫刻のイメージを規定してきたのは、古典主義時代の白亜の大理石彫刻と、パティナを施された漆黒のブロンズ彫刻といったモノクローム性であると考えられる。その古典主義的彫刻観を歴史的に検証することが当研究となる。「古典主義グループ」は、近世の彫刻のモノクローム性成立の契機と推移及び実態を問う。一方「古典主義以前」は、以上の彫刻観成立以前の豊かな彩色彫刻の歴史と特に素材別の考察を通して素材と色彩の関係を精査する。他方、「古典主義以後」には、19世紀の宗教像、抽象彫刻と新たな彫刻素材(鉄など)、および現代のポリクローム彫刻などの考察を通して、もっぱら「彫刻」の再定義を求められることになる。 以上の研究の内容・目的を、研究代表・研究分担者・研究協力者それぞれが、理論研究、作品研究、素材の研究を通して遂行する。2020年度は、新型コロナ感染症蔓延によって外国出張を行うことができなかったため、専ら機材の購入と文献の入手・読解を行い、理論研究に多くを割くことになった。内実としては、先行研究の読解により、研究現状の把握に努め、その報告を2021年3月4日の研究発表会(慶應義塾ミュージアム・コモンズKeMco 8階、KeMco Studio 通称ケムスタからオンライン会議形式)において行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は「当初予期していないこと」が起きた年であり、外国との往来が制限されたことが当研究にとって打撃であったことは否めない。その意味で、進捗状況がはかばかしいとは言えないであろう。とはいえ、その状況を奇貨として、海外出張費を書物や機材の購入にあて、理論研究を中心に行い、研究の基礎を築くことができた。 具体的には、2021年3月4日に参加する全ての研究者がオンラインを通じて研究発表を行い、内三名は、実質的に学会発表に相当する内容をもつ発表となった。すなわち分担者望月は、論文「一七世紀フランスにおける彫刻と色彩についての試論―ロジェ・ド・ピールによるズンボの着色蝋彫刻の評価を中心に」(『芸術学』にて今年度刊行予定)の内容を発表し、協力者請田は日仏美術学会での口頭発表に準じて「聖人のイメージと現前性をめぐって-聖ヴァンサン・ド・ポールの銀製聖遺物容器(1827)と全身像(1830)について」を発表、さらに協力者藤崎は、滞在先のイタリアから「展覧会"A nostra immagine"(パドヴァ、教区博物館)報告:パドヴァにおけるルネサンスのテラコッタ彫刻と「キリスト哀悼」図像の彫刻表象に関して」を発表した。 その他、代表者遠山「デッラ・ロッビア施釉テラコッタの色彩と象徴的解釈の可能性」、分担者金井「19世紀彫刻の白さについて」、分担者渡部「研究ノート:デイヴィッド・スミスとアンソニー・カロにおける色彩の問題」、以下協力者小泉「古代彫刻と色彩:古代における実態と近代の再評価」、新倉「イタリア・ルネサンスにおけるモノクローム彫刻の出現」、徳永「中世美術における色彩の象徴性:ベアトゥス写本を中心に」、大前「現代の具象彫刻における彩色の問題:ジョージ・シーガルとデュエイン・ハンソンを中心に」の研究報告を行い、研究進捗状況が概ね堅調であることを確認することができた。
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今後の研究の推進方策 |
3年間の研究期間のうち、その1年目にできなかった海外調査研究が今年こそは実現できるようにと願っている。今年度の後半に実現するならば、2020年度に行った文献資料にもとづく理論研究に具体例を伴った内実を充当することが期待できる。仮に、今年度も海外調査が不可能となった場合に備えて、昨年度の反省を踏まえつつ、研究者間のより密な連絡の機会を複数もつことを予定する。 2020年度の研究状況での反省すべき点に、1年を通じて研究者同士が実際に会う機会がなく、また一度オンラインで催した研究発表会の席上でも、十分なディスカッションの時間をもつことができなかったことである。従って、互いのコミュニケーションをはかることが研究推進のために不可欠だと判断し、そのために、年度末の研究発表会に加えて、夏あるいは秋に、最低一度の研究うち合わせ会を開催して、情報・意見・批判の共有を図ることとする。また、その際に古典主義以前・古典主義・古典主義以後とした歴史的区分に応じたグループ・リーダーにリーダーシップを発揮してもらえるように、グループごとの研究活動が機能するようにしたい。 さらに、研究推進のためには、来年度に日本に招聘することを予定しているジェンティリーニ教授との連携が不可欠だと判断し、イタリア在住の協力者藤崎を通じてより密な連絡を行うこととする。
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