研究課題/領域番号 |
20H01443
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
稲谷 龍彦 京都大学, 法学研究科, 教授 (40511986)
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研究分担者 |
笹倉 宏紀 慶應義塾大学, 法務研究科(三田), 教授 (00313057)
山下 徹哉 京都大学, 法学研究科, 教授 (10511983)
須田 守 京都大学, 法学研究科, 准教授 (70757567)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 企業制裁法制研究 / 法分野横断研究 / 学際的研究 / 法と経済学 / 法社会学 |
研究実績の概要 |
本研究計画では、企業価値を高める制裁法制について、①企業犯罪が起きるメカニズムの解明、②制裁制度の設計と企業価値の関係との解明、③①②の検討の成果を踏まえた法領域横断型の企業制裁法制の具体的姿の提示という、三段階での研究遂行を予定していた。その上で、本年度においては、主に①及び②に重点を置き、関連分野の専門家の助言を仰ぎながら、月一回程度のミーティングを基に研究を進め、必要に応じて米国および連合王国への渡航調査を予定していた。 しかし、新型コロナウイルスの蔓延により、各研究者とも所属機関等における新型コロナウイルス対応のために尽力せざるを得なくなったことから、月一回程度のミーティングを開催することは困難な状況となった。また、新型コロナウイルスの渡航制限により、英国及び米国への渡航等を行うことは困難な状況となった。したがって、基本的には各研究者による文献調査を基とした、オンラインによる意見交換会をベースに研究を進めざるを得ない状況となり、外国調査の点においては残念ながら当初予定していたよりも遅れをとることとなったと言わざるを得ない。 もっとも、いわゆる危機管理を専門とする大手弁護士事務所との定期的な研究会や、米国実務家及び米国研究者との交流を通じて、実務の現状に即する形で、企業犯罪が生じるメカニズムの分析を進めることができた点は成果といえる。とりわけ、繰り返しゲームを通じた信念の形成という観点から、「文化」を可視化するアプローチを採用することで、企業犯罪の発生原因を単に個人の利得計算ではなく、集団内における個人間の相互作用の影響を捉えるための方法論を案出し、これについて建設的な意見交換ができたこと、及び、この観点から見た場合の日米の「文化差」の問題を捉えるための第一歩を踏み出せたことは、この分野における「文化」に関する研究を進展させる上で重要な一歩となったと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルスの蔓延により、対面での研究会の実施や海外調査が困難となり、それが一定程度研究の進捗に影響を与えたことは確かであるといえる。しかし、文献調査及び、国内外の実務家及び研究者とのオンライン研究会を通じて、可能な限り情報の収集に努め、「文化」が企業構成員に与える影響を定量的に把握していくための仮説形成を進めることができたことは、一定の成果といって良いように思われる。というのも、従来、企業犯罪の文脈においては、しばしば「文化」が企業犯罪の発生要因として指摘されていたものの、具体的にそれをどのように客観的に評価可能な形で捉え、また、評価していくのかという点については、検討が進んでいない部分があった。 特に、企業犯罪を企業内の「個人」の犯罪として理解する傾向が強い我が国においては、結局のところ企業犯罪も組織内の不合理な個人の判断・行為の表出として理解されてしまうことにより、しばしば企業制裁制度自体の意義が問われることとなっていた。しかし、集団内での個人の判断・行為傾向の基礎となる「合理性」そのものが、他の個人との相互作用が繰り返しゲームのように作用することによって構成されるという制度理論を手がかりとすることにより、一定の状況に置かれた個人が特有の「合理性」を身につけ、それが違法行為のような形で表出するという仮説を得ることができた。 もちろん、この仮説を実証できるか否かは、今後の実証分析次第ではあるが、このように「文化」を捉えることにより、企業犯罪を抑止するためには、単に企業内の個人を制裁するだけでは足りず、「文化」を変容させるように企業制裁制度を運用する必要性を理論的に基礎付けることができるため、企業犯罪のメカニズム分析及び企業制裁制度と企業価値との関係性を分析していくという本研究計画の基盤となる部分について、一定の成果をあげることができたと言って良いと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルスの状況が改善し次第、予定していた海外調査及び海外実務家・研究者との研究会を実施することにより、比較法研究の観点からも、研究を一層進展させていくことが必要であると考えている。 同時に、本年度の成果として、制度理論を応用した理論枠組みをベースとして「文化」に着目することにより、単なる個人の「合理的選択」に止まらない形で企業犯罪の発生メカニズムを理解し、また、企業価値を向上させるために必要な企業制裁制度のあり方について、定量的に分析していくための手がかりを得たといえるため、この方向で研究を進めていくことで、企業価値を向上させるための企業制裁制度のあり方について具体的な提言を行うことができる可能性が開かれているといえる。そこで、次年度以降は、この「文化」の定量的把握に一層力を入れるため、より実務家及び関連分野の研究者と密接に連携し、現実に即した分析枠組みを得られるように研究を進展させていきたいと考えている。 また、「文化」に着目した研究の妥当性を検証するため、ある程度成果がまとまった段階で、学会あるいは研究会などで報告してより詳細なフィードバックを得るとともに、現在念頭に置いている「文化」の理解の妥当性そのものについても批判的検証を繰り返すことで、より説得力のある研究成果につなげていきたいと考えている。
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