研究課題/領域番号 |
20H01529
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
白肌 邦生 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (60550225)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ウェルビーイング / ボランティア / エンゲージメント / 未来共創 |
研究実績の概要 |
本研究はサービス学視点を活用し,ヒト・モノ・情報・関係性の資源で構成される「暮らしの価値空間」概念を新規に提案し,シニアの暮らしの価値を高めるような資源の統合・使用を支援するサービスデザインの方法論構築を目的としている. 2022年度は主に社会政策的視点形成の知見を得るべく次の3タスクを実行した.(1)量的調査を通じた(コロナ禍での)暮らしの価値形成においてボランティア活動への参加がもたらす効果の分析,(2)シニアを対象にした技術導入の課題に関する系統的文献調査,そして(3)将来にわたり暮らしの価値を高める技術開発を考えるための未来共創技法の開発,である.年度後期にはシンポジウムを行った. これらの研究活動を通じて次のことが分かった. 量的調査からは,地域ボランティア活動が,コロナ環境で変化した資源の回復・創造において可能性を持っており,特に,社会的距離を縮め,過去(に可能だったこと)を取り戻すことを目的とした活動は,その参加を先延ばしにしようとする傾向が低いことが分かった.文献調査からは,高齢者のサービス開発においては,社会的エンゲージメント向上を中心に設計することが,生活の質を高めることが言われているものの,それを促進する技術活用視点は十分に議論されていないことを見出した.加えて,未来共創技法については,技術経営分野で開発と適用の蓄積があるロードマッピング技法を応用して,技術の使われ方に対する既存の価値観にとらわれない思考を促すべく,SF思考等の知見を基に概念枠組みを形成した.この技法の開発は23年度も引き続き行う.2022年12月に2名の研究協力者と共にシンポジウムを開き,合計4件の成果報告をシニア中心の地域活動の主催者が集まる中,行った.結果,自分自身が向上心やキャリアアップができるようなことを通じて,地域活動への継続性を高めていくことが重要であることを共有した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍で聞き取り調査ができなかったことの代替案として量的調査における自由回答項目の活用で実態把握をすることができた.コロナが収まりを見せた年度後半には地元のNPO活動主宰者らを交えたシンポジウムができ,直接研究フィードバックを得ることができた.当初設定した計画については一通り活動できており,その観点から順調に進んでいると自己評価する.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,これまでの研究成果を総括し,個人(ミクロ),コミュニティ(メゾ),社会政策(マクロ)を一体的に扱うためのロジック(世界観)を構築し,具体例と共にそのロジックの妥当性を検討する.そして,高齢者の暮らしの価値空間に与えうる課題を捉え,それを克服するためのサービスデザイン方法論を構築する. これまでの3年間の研究から,政策変化を含むマクロ変化は,生活者が自らのエンゲージメントを高めることで積極的に生活の価値形成をしなければならないといった,責任化圧力生成の可能性があることがわかってきた.そしてその責任化と相まって,サービス経済の中で展開される様々なサービス価値提案が,生活者が本来自らの視点で持つべき価値観の形成や,選択的行為の実践に影響することで,生活者の脆弱性を生み出しうることを見出してきた.開発したいサービスデザイン方法論はそうした脆弱性による個人やコミュニティの課題を改善することに寄与できることが重要である. この背景から,サービスデザイン方法論を2つの視点から開発する.第1は22年度からの継続研究としての未来共創技法の視点である.暮らしの価値空間に関わる複数の視点から,それぞれの時間的変化による様々な機会の変化を議論するべくロードマッピング技法を改良する.第2は高齢者の潜在ニーズを基にサービス開発するための方法論の開発である.サービス開発方法論は従来から多くの研究・実践があるが,高齢者が小さな1歩でも新しいことを進めていけるような前向きな変化(uplifting change)を動機づけることを重視した方法論は十分にない.このことを踏まえ,マーケティング知見も取り入れながら,本研究の積み重ねを総括する.
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