2023年度はこれまでの知見を統合し,高齢社会のための豊かな暮らしの価値空間形成に向けたサービスデザイン手法開発を行った.これまでの研究タスクから,高齢者向け支援技術は高齢者の自立を支援する一方で,社会的孤立を増大させるリスクもあることを確認していた.そのため,高齢者個々の社会的背景を考慮したうえでサービスの中でどう技術適用する必要があるかを考えるフレームワーク開発を目指した. 具体的にはサービス研究における「責任化研究」をもとに,政府や地域コミュニティが消費者にもたらす責任化(従来責任を負っていた対象がそれを消費者に転嫁していくこと)が,どのようなテーマで顕在化し,それによって高齢消費者は自分のウェルビーイングのためにどのような行動をとることが期待されるようになったのかを構造的に考えるフレームワークを作成した.教育の場において複数回適用し,金融,教育,健康,社会的弱者の生活を始めとしたテーマにおいて,関係主体が社会的に何を期待され,どのようなサービス或いはサービス技術を欲し,それを獲得する際にどのような困難さ(アクセス,金銭・体力面での困難等)を持っているのか,を思考可能であることを確認した.このフレームワークは当初,年齢条件を意識して開発をしていたが,試行過程で高齢者に限定するものではないことを見出した. サービスデザインとして,このフレームワークで表出化したアイデアをもとにどのように既存のデザインツールと接合が期待できるかを,2024年3月22日に米国の研究者と国内研究者2名を交えたセミナーにて議論した.結果,顧客ジャーニーマップや価値星座アプローチ,インタラクションデザイン等との親和性を見出し,それらとの接合のアイデアを共有した.そして同時に,それはウェルビーイング志向のマーケティング実践の中核になりうるツールであることを参加者で確認した.
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