研究課題/領域番号 |
20H01603
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
辻内 琢也 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (00367088)
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研究分担者 |
根ケ山 光一 早稲田大学, 人間科学学術院, 名誉教授 (00112003)
扇原 淳 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (20329072)
桂川 泰典 早稲田大学, 人間科学学術院, 准教授 (20613863)
多賀 努 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (40415500)
増田 和高 武庫川女子大学短期大学部, 心理・人間関係学科, 准教授 (40596962)
日高 友郎 福島県立医科大学, 医学部, 講師 (70644110)
小島 隆矢 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (90292888)
金 智慧 早稲田大学, 人間科学学術院, 助手 (20883705)
岩垣 穂大 日本女子大学, 人間社会学部, 助教 (40882642)
平田 修三 仙台青葉学院短期大学, こども学科, 講師(移行) (50888683)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 原発事故 / 被災者 / 移住 / 居住福祉 / 人間科学 |
研究実績の概要 |
本研究は、心身医学的な量的調査と医療人類学的な質的調査を通して、「帰還か移住か避難継続か」の選択を迫られる原発事故被災者が、今後数年間で安心して生活できる新たな居住環境をどのように構築していくのか、現状と問題点を明らかにすることで、「居住福祉」に資する心理社会的ケアの戦略の提言を目指しているものである。「居住は基本的人権である(Housing is a basic human right)」と言われるように、内科学・心身医学・公衆衛生学・臨床心理学・発達行動学・社会学・社会福祉学・平和学・建築学・環境科学といった学融合的な調査研究が必要である。そのため、研究者らは、2011年発災当時から民間支援団体「震災支援ネットワーク埼玉(以下SSN)」を含め、多領域の専門家らとともに原発事故被災者の支援を目指した研究を継続させてきた。 2020年度の研究計画通り、[A]大規模アンケート調査、[B]インタビュー調査、[C]海外連携、[D]フィールドワーク、の4手法に基づく調査研究を継続してきた。東京大学が率いる研究プロジェクト「震災復興の公共人類学―福島県を中心とした創造的開発実践」と、それに続く東北大学東北アジア研究センターとのコラボレーションであろう。この協働の成果は『震災復興の公共人類学』(東京大学出版会、2019)として結実している。 2020年度の段階における支援活動は、交流会やコミュニティカフェ等の地道な支援へと移行している。必要とされる支援活動の変化とともに、今後の新たな調査研究を企画するに先立って、事故直後から7年間続けてきた今までの調査研究を総括する必要があると考えられた。そこで、今年度は今までの研究成果を和文書籍および英文書籍としてまとめ、国内外への発信を行なった。この研究実績をもとに、長期的な研究計画を新たに立てていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、新型コロナウイルス感染症の拡大により、当初の研究計画であった大規模アンケート調査やフィールドワーク調査の実施ができない状況であったが、共同研究者らとの定期的な会議を開催してきた。敵的な会議では、2011年から取り組んできた今までの研究実績を振り返えりつつ、現時点で実施可能な研究についての検討を行った。 2021年度に入り、新型コロナウイルス感染症の拡大状況が落ち着いてきたこともあり、大規模アンケート調査研究の実施に向けて既存のアンケート調査項目の再検討を行った。原発事故発生から10年以上が経つ現時点において被災者が置かれている状況やニーズをより的確に把握する必要があったため、項目の再検討は、多領域にわたる研究者や専門家に加え、被災当事者の方々にも研究会議に参加していただいてスーパーヴァイズを受けながら行われた。また、実施方法において今まで行ってきた紙版アンケート調査に加え、Web版アンケート調査を同時に実施することを検討し、Web版調査ページを作成した。 さらに、2021年11月28日には、早稲田大学大隈講堂にて、シンポジウム「“復興の人間科学2021”『福島原発事故10年の経験から学ぶ』―当時小学生だった若者達との対話から―」を開催した。シンポジウムでは、原発事故発生当時、小学生であった被災当事者(5名)による講演や基調講演者による講演、パネルディスカッション等を行い、未来を担う若者たちの語りから見えてくる今後の社会的ケアや人間復興について人間科学的視座から問うことを目指した。シンポジウムでの被災当事者らによる講演の要旨、基調講演者による論文、パネルディスカッションのまとめと「若者達の提言」等は、本学術院紀要「人間科学研究」3月号(Vol.35)に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の目標は、①大規模アンケート調査用紙の実施・解析、②災者・災害弱者へのインタビュー調査を通して、被災者の全人的苦痛に耳を向けると同時に、安心・安全に生活できる「居住福祉」に必要な諸要素を探ること、③今までの研究調査結果をもとに、自治体や政府に対する政策提言を行うこと、である。現在、原告となった被災者を救済するための裁判や生活再建を確保するための裁判への提言書・意見書の作成に取りかかっている。それにより、防災・減災の観点からも原発事故の被災と復興の歩みを体系化していくことを試みる。
大規模調査用紙の実施・解析、結果の発信:大規模アンケート調査を実施し、精神的被害の大きかった地域の特徴や被災者の属性、また被害の小さかった地域や属性を明らかにし、災害被害に対してレジリエンスとなる因子を抽出する。2022年3月にシンポジウム『FUKUSHIMAは終わっていない!』を開催する。本シンポジウムは、2021年11月のシンポジウムでの学びや大規模アンケート調査結果をもとに、長期避難、帰還、移住を迫られる被災者らの苦悩や被災者間で深まりつつある分断問題から、継続されている様々な問題の再認識を目的とする。また、日本の原発問題や歴史的問題を自分事として捉えることで見えてくる復興のあり方について考えていく。
フィールドワークおよびインタビュー調査の実施・解析と政策提言:アンケート調査の自由記述やインタビュー調査を通して、事故直後と時間の経過に伴う被災者の精神的苦痛のあり方やその質的量的な変化をみると同時に、現在の状況と被災者の精神的健康度もしくは苦痛を明らかにする。具体的には、1) 災害復興を阻む要因、2) 災害復興を促進させる要因、3) 災害の種類による相違点、4) 国家や文化差による相違点、5) 災害復興に資す普遍的かつ包括的な方略の策定について議論・整理し、国内外へ政策提言を行なう。
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