研究課題/領域番号 |
20H01752
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
唐沢 かおり 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (50249348)
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研究分担者 |
鈴木 貴之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (20434607)
太田 紘史 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (80726802)
浦 光博 追手門学院大学, 心理学部, 教授 (90231183)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 心の知覚 / 道徳的判断 / 感情 / 自由意志 / 擬人化 / 実験哲学 |
研究実績の概要 |
心の知覚およびそれと関連する社会的判断過程に関するに関する社会心理学・哲学領域の文献研究を実施した。文献研究に際しては、社会的認知領域での実証的知見をまとめると共に、1)領域全体がどのような視座の元、社会的な心を論じてきたかについて考察し、提示される人間観の重要性を明らかにすると共に、2)実験哲学研究と社会的認知研究の関係を考察し、両者の連続性と断絶について「分野の関心」の位置づけから考察した。 実験哲学的な研究では、道徳的責任と自由意志に焦点を当て考察を深めた。具体的には、行為性と経験性の概念検討の中で、現代哲学の論争で自由意志を構成する適切な行為性の内容が主な係争点になることを明確化した。また、自由意志の発揮で得られる感覚と経験性の役割という観点から、自由意志議論において、心理学や神経科学の知見を参照しながら経験性を考察する必要を確認した。 社会心理学領域における実証的な研究では、他者・他集団とAIに対する態度について探索的なデータ収集を行った。他者や集団については、経験性に問題を抱えると判断されうる対象(精神障害者など)や親しい人を亡くすなど不幸に見舞われた人への判断に焦点を当て、心の知覚の実情の記述や、心の知覚と継続的な関係認知との関わりを明らかにした。 AIについては、AIの擬人化傾向を、社会的弱者の非人間化との関わりの点から検討した。この検討のために、新たに、「本質性(感じる心)-機械的非人間化」次元と「独自性(行う心)-動物的非人間化」の2次元からなる擬人化-非人間化尺度を開発すると共に、人生の成功者、富裕層の人びと、高齢者、貧困層の人びと、ならびにAIに対する評価を比較し、AIの本質性が低く評価される(機械的に非人間化している)一方で、貧困層の人びとや高齢者の独自性をAIよりも低く評価している(動物的に非人間化している)ことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
社会心理学者と哲学者の共同を密接に進め、オンライン会議も活用しながら入念な議論のもと、理論的な検討と実証的な検討双方について、成果を収めた。議論の推移および実証的データの検討に基づき、当初仮設を柔軟に改訂すると共に、より重要と思われる論点を積極的に探すことで、学際的な研究がともすれば陥る「それぞれの視点・論点への固執」を回避してきたと考えている。コロナ禍で実験的な検討が困難になった中、オンライン調査に切り替えたり、理論的な議論に研究活動をシフトすることで、今後の検討を展開する基盤構築も、一定行えた。 研究成果についても、社会心理学・哲学の各領域において、学会発表、学術論文、書籍の執筆を行っており、活発な研究活動を反映しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度行った理論的議論をさらに精緻化すると共に、実証研究においては、一部、矛盾する結果も得られている。それを説明する変数を同定することが直近の課題となる。また、経験性の役割について、申請時に重要な課題としてあげていた「経験性知覚の帰結に関する議論の矛盾」については、いくつか探索的な実証検討を行ったものの、説明力の高い要因を挙げる段階には至っていない。従って、この問題についても、検討を重ねる必要がある。 研究の遂行において、実験室実験がコロナ禍により困難であることについては、積極的な対応が必要である。実験でしか得られない知見はあるが、オンライン調査・オンライン実験などで有効に検討可能な論点および、その論点位置づけを積極的に考察することで、この問題に対応していきたい。
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