研究課題/領域番号 |
20H01877
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
吉川 研一 同志社大学, 研究開発推進機構, 客員教授(嘱託研究員) (80110823)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | DNA高次構造転移 / 人工細胞モデル / ミニ臓器創成 / 生命現象の物理 / 非平衡開放系 |
研究実績の概要 |
実空間上に単純な実験モデルを構築するとともに、非平衡物理学や非線形科学に立脚した数理モデルと対比しながら、以下の3つの課題を中核に研究を総合的に推進した。 1)ゲノムDNAの高次構造転移と遺伝子活性に関して、溶液中での1分子の動的高次構造観測を中心にして、100kbp塩基対のサイズの長鎖DNAの折り畳み転移特性についての実験を進め、高次構造と転写・発現・複製の活性との関連を明らかにすることを目指して実験を進めた。特筆すべき成果としては、Kイオン存在下ではNaイオン存在下に比べて、発現活性が2倍以上亢進することを明らかにしたことが挙げられる。地球上の細胞では、細胞内液でのKイオンが多くなっており、このことと関連して、重要な発見であると言える。DNAの一分子計測を行うことにより、NaイオンはポリアミンのDNAへの結合を阻害する傾向があり、これが、KイオンがNaに比して発現促進作用があることの分子論的なメカニズムになっているとの結論が得られている 2)細胞の実空間モデリングの研究課題では、水溶性の高分子混雑溶液を用い、ゲノムDNAおよび、リン脂質を加えて攪拌すると、DNAを自発的に取り込み外周がリン脂質二分子膜で安定化された人工的モデル細胞が自己創生することを明らかにした。 3)細胞の3次元(3D)組織体自己生成では、水溶性の高分子共存化、ミクロ相分離による、上皮系や間葉系の細胞が、相分離液滴の界面や内部に選択的に取り込まれることなどを実験的に確認することができている。さらに、細胞から取り出したミトコンドリアを、ミクロ相分離により細胞サイズ液滴に取り込ませることが可能であることなども見出している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績でも述べたように、以下の3つの主要な研究課題がいずれの順調に進展してきている。1)ゲノムDNAの高次構造転移と遺伝子活性、2) 細胞の実空間モデリング、3) 細胞の3次元組織体自己生成。 その中でも、当初の予想を越えた新規性の高い研究成果として、Kイオン存在下ではNaイオン存在下に比べて、発現活性が2倍以上亢進することを明らかにしたことが挙げられる。地球上の生命体が、なぜKイオンが多く含まれる細胞内環境を選択したのか、これは、現代でも未解明の課題であるが、今回の研究成果は、それに対する物理化学的根拠を示唆するものとなっており、学問的な意義は大きい。 上記の発見に加えて、細胞の実空間モデリングに関しても当初の想定を上回る、大きな成果が得られている。2種類の水溶性高分子共存溶液のミクロ相分離によって生成する細胞サイズ液滴での実験が、予想を越えて新しい知見を与えてくれている。すなわち、ミクロ相分離条件で、リン脂質共存下、かき混ぜるだけで安定な細胞サイズのリン脂質小胞が自発的に生成し、しかも、DNAなどが小胞内部にとりこまれた状態のものが得られることを明らかにしたことが挙げられる。これは、人工細胞系の研究にとって、国際的にみても極めて新規性の高い研究成果であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
1)ゲノムDNAの高次構造転移と遺伝子活性、2) 細胞の実空間モデリング、3) 細胞の3次元組織体自己生成。これら3つの課題を中心に、研究を推進していく予定である。今後は、上記の課題を統合する形の大きな狙いの研究も試みる。例えば、実空間の細胞モデル内でのゲノムDNAの高次構造変化や、その配置の偏在化を一分子計測の手法を活用して究明する。また細胞組織体の研究と平行して、cmのマクロスケールでの自己秩序形成に関する実験も新たな研究課題として位置付ける。
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