研究課題/領域番号 |
20H01898
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
淺賀 岳彦 新潟大学, 自然科学系, 教授 (70419993)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 暗黒物質 / ニュートリノ / マヨラナ性 |
研究実績の概要 |
本研究では宇宙暗黒物質を目指し、ニュートリノ質量、宇宙バリオン数の問題を同時に解決する軽い右巻きニュートリノを導入した模型を検討し、長寿命右巻きニュートリノが暗黒物質となる可能性を総括的に探求している。右巻きニュートリノはシーソー機構を通じて振動実験が提示したニュートリノ極微質量を自然に説明する。さらに、その崩壊や振動過程を通じて宇宙バリオン数を生成する。本課題では、宇宙暗黒物質を実現する右巻きニュートリノの性質、つまりその質量と相互作用の強さを把握すること、およびその情報を用いて右巻きニュートリノの直接検証法を確立することである。 今年度、右巻きニュートリノの質量と相互作用の強さを探るために、ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊について集中的に研究を進めた。この過程はニュートリノのマヨラナ性を示す過程であり、現在世界中で活発に探索されている。このニュートリノのマヨラナ性はシーソー機構の重要な帰結の一つであり、右巻きニュートリノの間接検証の可能性を与える。特に、右巻きニュートリノが軽く相互作用が比較的強くなると、崩壊に有意な寄与を与え標準的な予言が大きく変更される可能性がある。 我々は右巻きニュートリノの寄与によりこの崩壊過程が消失する可能性、および将来実験で観測される場合を総括的に検討した。その結果、崩壊の観測結果に依存して、右巻きニュートリノの質量と相互作用の強さの予言領域を提示することができた。さらに、右巻きニュートリノの寄与は、二重ベータ崩壊を起こす核種に大きく依存するため、異なる核種による実験データを統合することにより、右巻きニュートリノの寄与の存在をより明確にし、その質量と相互作用の強さを把握できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度、本課題の研究対象である素粒子右巻きニュートリノの質量と相互作用の強さを把握するために、ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊について探究した。振動実験から提示したニュートリノ極微質量を説明するために右巻きニュートリノによるシーソー機構を実現する必要があるが、その最大の帰結がニュートリノは他のフェルミオンとは違い、マヨラナ粒子であることである。この点を実験的に検証するために最も有望な過程がニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊である。 我々は、この過程に対する右巻きニュートリノの寄与を総括的に検討し、今後の実験で崩壊のシグナルが見える場合、および見えない場合に、この新粒子の質量と相互作用の強さに対してどのような示唆が与えられるかを導出した。相互作用の強さは、右巻きニュートリノの弱い相互作用中の混合の強さとして定量化できる。今回、上記二つの場合に対して、この右巻きニュートリノの質量と混合の予言領域を提示した。この結果は、ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊、および右巻きニュートリノの今後の探索実験計画に重要なインパクトを与えた。 これらの成果は3本の論文にまとめて発表した。第一論文は、Physical Review誌に掲載され、第二論文はProgress of Theoretical and Experimental Physics誌に掲載が決定した。第三論文は現在投稿中である。 また、初期宇宙での右巻きニュートリノ暗黒物質の精製量を評価するための数値解析の準備も進めた。新潟大学に計算機サーバーを導入し数値計算の実行能力を飛躍的に高め、解析環境を整備した。現在、生成量解析プログラムの開発をしている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、右巻きニュートリノが暗黒物質となる可能性に着目し、暗黒物質を記述する理論および宇宙の熱史を明らかにすることで、標準模型を超えた新物理を探究する。具体的には以下の2つの課題を設定した。課題A:右巻きニュートリノ暗黒物質の生成機構の解明。課題B:右巻きニュートリノ暗黒物質の地上実験での検証方法の確立。 課題Aの今後の研究計画としては、数値解析の環境が整ったため、解析プログラムの完成、および暗黒物質生成量の定量解析を進める。特に、Shaposhnikovらが提示した生成機構に従い、暗黒物質の残存量を説明するために要求される右巻きニュートリノ質量、および相互作用を把握する。さらに、宇宙の熱史が変更された際、暗黒物質の生成量にどのような影響が出るかを網羅的に照査する。 課題Bについては、最近議論が始まった物性実験を用いた検証法の探究に着手した。地上のテーブルトップ実験での検証が可能となるのそのインパクトは大きいため、まず最初の課題とした。結晶中での暗黒物質反応の詳細を研究し、検出可能なシグナルが存在するか探究する。
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