研究課題/領域番号 |
20H01975
|
研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
|
研究分担者 |
服部 祥平 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (70700152)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 硫黄同位体 / 硫化カルボニル / 大気化学モデリング / 人為起源 |
研究実績の概要 |
硫化カルボニル(COS)は成層圏硫酸エアロゾル形成による地球の冷却効果の一因となる他、一次生産量の間接的な指標となる。しかし、COSの生成源のうち60%以上の起源が不明と指摘され、過去から将来にわたる成層圏硫酸エアロゾル量の推定や、COSを用いた一次生産量の評価を困難にしている。そこで本研究では、数値モデリング手法に基づく大気硫黄循環の解析に、COSの起源を区別できる硫黄安定同位体組成情報を組み合わせて、COSミッシングソースを特定し、全球COS収支を解明する。また、全球COS動態モデルを構築することで、人間活動の変化が対流圏COS動態・成層圏硫酸エアロゾル量を通じて気候変動に与える影響を評価・予測する。 本研究の初年度では連続的に大気COS濃度測定が可能な装置を導入し、インレットシステムの立ち上げを行った。大気COS同位体比測定に関して、これまでの観測結果をまとめて国際誌に発表した他、国内外の学会で発表した。 数値モデリングに関しては3次元大気化学輸送モデル(GEOS-Chem)用の計算機を構築し、モデルの導入を行った。さらに、COSの起源となる二硫化炭素(CS2)の酸化過程について1Dモデルで研究を行った。その結果、対流圏下部においてUV-A紫外線はCS2の光励起反応を起こすことを明らかにし、これまでモデル研究では考慮されてこなかったCS2からOCSへの酸化過程を報告した。これらの結果を国内の学会で発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の一つの目的としては、大気COSの濃度と硫黄同位体比を観測し、COSの起源について解明をすることである。そこで、COS濃度測定用にAERIS社のMIRAPICO測定器を導入した。これによって30秒間隔でCOS濃度の測定が可能とした。現段階では装置の安定性と測定条件の最適化を実施している。一方、予定していたOCSの硫黄同位体比の観測は、COVID-19感染拡大の影響で中止した。COVID-19感染状況が収束した後、観測を再開する予定である。 もう一つの目的は数値モデルによる、同位体比の計算プログラムを追加導入した全球化学輸送モデルを構築し、モデル内の人為由来COSと海洋由来COSの排出強度を変化させ、COSの濃度と硫黄同位体比のモデル値を算出することである。モデル値と観測値が最も合致する人為由来・海洋由来のCOS排出量を決定し、COSミッシングソースにおける人為・海洋由来の寄与割合を明らかにし、このモデルによる全球COS収支の解明と将来予測を行う。2020年は数値モデリングに関しては3次元大気化学輸送モデル(GEOS-Chem)用の計算機を構築し、モデルの導入をすることができた。さらに、COSの起源となるCS2の酸化過程について1Dモデルで研究を行った。その結果、対流圏下部においてUV-A紫外線はCS2の光励起反応を起こすことが明らかになり、これまでモデル研究では考慮されてこなかったCS2からOCSへの酸化過程を報告した。
|
今後の研究の推進方策 |
2021度前半では昨年度購入した高解像度硫化カルボニル濃度分析装置の試験調整を行い、運搬可能な硫化カルボニル濃度分析装置として確立することを目指す。また、次年度以降に観測や一次元モデリングによる解析で得られた結果を三次元大気化学輸送モデリングに導入するために、三次元大気化学輸送モデリングのコード解析を進める他、分析時の煩雑な操作を削減するために硫化カルボニルの硫黄同位体比分析の自動化を進める。 2021度後半では、上智大学において確立した測定法を用いて硫化カルボニル濃度の観測を実施する。同時に、硫化カルボニルの硫黄同位体比分析を行い、観測サイトにおける人為と海洋由来の寄与率の推定を行い、硫化カルボニルの起源について解析を行う。得られた硫化カルボニル濃度の日変動や硫黄同位体比の変動を独自の一次元モデリングを用いて再現し、硫化カルボニル濃度変動の要因を特定する。特に、硫化カルボニルの主たる前駆体である二硫化炭素から硫化カルボニルの大気酸化反応の反応効率に着目して最適化することを試みる。
|