本研究の目的は、価数の異なる2種類のカチオンからなる“複合カチオン”を金属酸化物半導体に導入することで、フォノン散乱の増強によって熱伝導率を大幅に低減し、中温(300℃程度)から高温(900℃程度)までの幅広い温度範囲で優れた特性を示す熱電変換材料を創製することである。昨年度までの研究において実施した結晶構造解析により、Aサイト複合ペロブスカイト型酸化物である(La1/2K1/2)TiO3がSrTiO3と同等の高い電気伝導性を示す可能性が示唆された。またグレインサイズの異なるNbドープ(La1/2K1/2)TiO3セラミックスを作製し、グレインサイズを154 nmから238 nmへと増大させることによって、電気伝導率が10倍以上も飛躍的に向上することが確認された。そこで本年度は、作製したNbドープ(La1/2K1/2)TiO3セラミックスの熱伝導率を測定し、実際にフォノン散乱の増強による熱伝導率の低減効果の確認を試みた。その結果、600℃における熱伝導率が1.2 W/m/Kであり、SrTiO3セラミックスの報告値(6~7 W/m/K)に比べて極めて低いことが確かめられた。これらの結果から、(La1/2K1/2)TiO3系セラミックスのグレインをさらに大きくすることで粒界抵抗を低減すれば、SrTiO3系を凌駕する優れた酸化物熱電材料の創製が可能であることが示唆された。さらに、ペロブスカイト型酸化物について実証した複合カチオンエンジニアリングの概念をタングステンブロンズ型の複合酸化物に適用し、Y3+とNa+からなる複合カチオンを有する新規化合物(Y1/2N1/2)0.6Ba0.4Nb2O6の合成にも成功し、還元焼成した同化合物のセラミックが半導体的な電気伝導性を示すことも確かめられた。
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