研究課題/領域番号 |
20H02588
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
猪股 直生 東北大学, 工学研究科, 助教 (40712823)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | マイクロ温度センサ / 細胞 / 温度信号 / MEMS / 微細加工技術 |
研究実績の概要 |
温度は生体内や細胞内機能発現のトリガーとして様々な生理機能や生体リズムに影響を与え,生体の恒常性維持と密接な関わりがある.しかし,温度は生命の維持や細胞の機能発現に不可欠であるにも関わらず,それらと密接に関わりのある細胞の熱物性や熱機能の詳細は未だに明らかになっていない.近年,細胞の熱物性は,水では近似できないこと,内部の温度分布が一様ではないこと等,様々な知見が得られている.本研究では,高温度分解能(数u℃)かつ高応答性(サブミリ秒)を有し,培養細胞を計測対象とする温度センサデバイス・システムの実現を通して,細胞自身が発する温度信号や細胞の温度挙動を定量的に計測することを目指し,細胞の温度特性と細胞内伝熱機構を解明する.本年度の実績概要は次の通りである.
【温度センサとデバイス構造】:当初,共振温度センサを用いる予定であったが,諸事情によりその作製に必要な特殊基板の入手が困難となり,同程度の高感度・高温度分解能が期待できる酸化バナジウムを用いたマイクロサーミスタを使用するよう計画を変更した.熱伝導率の低いSiO2の浮遊薄膜構造上にマイクロサーミスタを設けることで断熱効果を高めた.細胞の測定環境において不確定要素を避けるためにも,一般的な条件下で細胞本来の熱挙動を計測するべきであり,ポリマー製チャンバをデバイス上面に貼り合わせることでシャーレに似た培養環境を確保した.作製したデバイスを評価し,細胞の温度計測に充分な温度分解能と応答性を得られることを実験的に確認した. 【実験系の構築】:細胞の外部加熱を行うため,市販の顕微鏡と市販の赤外線レーザ照射システムを購入し組み合わせた.一般的に市販されていない部品は自身で準備し,システムに組み込んだ. 【新原理温度センサの実証】:温度応答性イオン液体の電気特性温度依存性を評価し,温度センサとしてのポテンシャルを実証した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
諸事情により計画の変更が生じたものの,当初の計画通り,デバイスの設計と作製,作製したデバイスの温度分解能と応答性の実験的な評価,実験系の構築を達成することができたため.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は計画に変更があったものの,デバイスの設計,プロトタイプの作製と評価,実験系の構築を達成した.次年度は以下の通り計画する.
【デバイス上での細胞培養】:一般的な細胞の信号計測では,市販の細胞培養用シャーレ上で細胞が培養される.そのプロトコルは確立されているものの,作製したデバイス上でもそれがそのまま適応できるとは限らない.そのため,確立された一般的な細胞培養プロトコルをベースに,デバイス上での細胞培養プロトコルを検討,確立する. 【細胞の温度信号計測】:作製したデバイスを用いた細胞の温度計測に取り組む.最終的に,低温(20℃以下),室温(25℃付近),最適温(37℃付近),高温(40℃以上)の各温度帯域における①培養細胞群中の単一の細胞から自発的に得られる温度信号と②外部熱入力における温度信号を計測し,①と②を比較する.まず,①の自発的に得られる温度信号の取得と解析を目指す.
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